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戯曲「まほろば」@蓬莱竜太


まほろば
2009年の岸田國士戯曲賞を受賞した、
蓬莱竜太の「まほろば」。
秋山菜津子主演で非常に評判がよかったのだが、見逃していた。
この前、モダンスイマーズの「凡骨タウン」を見に行ったら
ロビーでサイン入りの本が売っていたので、迷わず買う。
祭りの日に、
一家の女たちが一同に会し、
「産む」ということについてすったもんだある話である。
そのために、三世代の女たちを用意した。
戯曲だけを読んだ感想としては、
イマイチかな~。
同じ蓬莱さんだったら、
この前の「凡骨タウン」のほうがずっとテーマを深く大事に扱っている。
カラダの芯をえぐられるような痛みがあった。
とても非日常的な、自分とは離れた世界を描きながら、
ものすごく共感するものがあった。
だから、「痛かった」んだと思う。
それに比べて「まほろば」は、
ありふれた日常の一コマを場面として設定しているし、
「産む」性は、女性の私にとってはものすごく身近なことだ。
それにしては、どこか絵空事というか、
一種のフェアリー・テールに思えてしまったのはなぜなのか。
その答えが、ここにある。
岸田國士賞の審査員らによる、選評だ。
本のあとがきによると、
蓬莱氏は「言葉によって」女性の関係性を描きたかったようだが、
そこに生活感がなかったのが致命的だ。
女性の人生が「恋して孕んで産んで」がすべてであるかのように描かれる。
「私は仕事がしたい」「親になる準備ができていない」というミドリの言葉が
ただのワガママに聞こえてしまう。
どんな思いでここまで仕事で認められるようになったのか、
自分は、どんな家庭を持ち、どんな親になりたいのか、
それは多分に自分の育った環境からくる反面教師的反動があるはずで、
せっかく親子で価値観がぶつかり合う設定なのに、
そのあたりがほとんど「婿取れ」「孫産め」vs「イヤ!」だけで
片付けられているから薄っぺらく感じるのだろう。
その上、
人を貶める発言が多すぎる。
同じ舞台でもお笑いコントならそれこそ笑って見過ごせる類かもしれない。
でも、
テーマが母性であり妊娠出産であり、
血筋を守ることへの執着だったりするのだから、
面と向かって「父親がわからない」とか「お客の前に出ないで」とか、
そういうこと言ったり言われたりしているのに
笑顔で大団円っていうのは、ちょっと理解しにくい。
その点を、
永井愛氏は選考委員としてというよりも一人の女性として、
鋭く批判しているのだと思う。
「女として」というより「娘として」とでもいおうか。
女はまず、母親との精神的暴力と闘って傷つき、そして力をつけていく。
自分を肯定する「言葉」を身につけないうちは、
母親と本当の意味で「仲良く」などはできないのだ。
少なくとも、自分の「生き方」を否定された娘は。
私は永井愛氏がいうほどに、蓬莱氏の書き方に嫌悪感はないが、
それでも共感にはほど遠かったように思う。
それとなく被爆地の近くであるために出産が不安だったことを匂わせるも、
「心配だったけどエイヤって生んじゃったら五体満足で結果オーライ」
みたいにしか思えない触れ方で、何の伏線にもなってないし、フォローもない。
書くなら書くで、その問題をしっかり書かなければ中途半端になるだけだ。
家制度とか、跡継ぎとか、「男だけに許された御輿担ぎ」とか、
そういうものを打破するような雰囲気から始まりながら、
結局は男たちの勇猛果敢な怒涛の掛け声が女たちの腹をかけめぐり、
「産む」性が女たちを幸せにする予感で終わるのが、
なんとも旧態依然な予定調和に思えた。
でも「つまらなかった」わけではない。
文章だけで笑っちゃったりするのだから、
これを達者な俳優たちが目の前で演じたら、ほんとに面白いだろうな~。
秋山さんが絶賛されたのがわかる。
戯曲では網羅しきれてなかった「女が都会で生き抜くしんどさ」を、
けれどそうしたいという情熱を、
きっと秋山さんはカラダで表現したのだと思う。
ホンのよさは大切だけど、
舞台はホンだけでは計れないものがあります。

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