映画・演劇・本・テレビ、なんでも感動、なんでもレビュー!

  1. 舞台
  2. 11 view

「オール・ザ・キングズメン」


オール・ザ・キングスメン コレクターズ・エディション(オールザキングスメン)
1949年、
新聞社クロニクルで働く若い記者ジャック(ジュード・ロウ)は、
ルイジアナ州の州知事選挙に出ているちょっと変わった泡沫候補を取材することになる。
男の名はウィリー・スターク(ショーン・ペン)。
ただ正義感が強く、正直なだけがとりえの下級官吏は、
初めは選挙運動というもののからくりにほんろうされているが、
ある演説ですべての「お仕着せ」をかなぐり捨てたころから、
労働者たちの心をつかみ始める。
その圧倒的な磁力に、いつしかジャックもひきつけられ、
彼のスタッフの一角をなすようになる。
熱狂的な支持者のうねりを背景に当選、
無料で診療する病院、無料で学べる学校など、
どちらかというと共産的な政策をどんどん打ち出すウィリーに、
土地の名士などブルジョアたちは眉をひそめる。
しかし、
ウィリーは「政治」の世界を泳いでいく「すべ」を体得、
彼の抜け目ない裏工作の網にからめとられると、
金持ちたちは好むと好まざるに拘わらず、「協力」せずにはいられなくなるのだった。
ウィリーが表舞台の「太陽」だとすると、
その裏で汚いことのすべてを取り仕切るのが、用心棒のシュガーボーイ。
子役時代のあと不遇をかこったジャッキー・アール・ヘイリーにとって久しぶりの映画復帰だが、
挙動不審な存在感でドラマに陰影をもたらしている。
この後、彼は「リトル・チルドレン」で重要な役を演じて好評を博した。
清濁のみこんだ政治の世界の裏側を、
これでもかというくらい辛らつに描いた作品。
「貧者の救世主」に思えたウィリーがあきれるほどの悪事に手を染め、不感症になる過程は、
「一体何が彼をそうさせるのか?」と
見ているこちらを戸惑わせるほど。
しかしどの人物にも「悪」があり、
その手は汚れていて、
誰一人「私だけは別」とすました顔ができない。
この映画に「きれいごと」は一つもないのだ。
「確信犯」的悪徳政治家・ウィリーを演じるショーン・ペンがいい。
大恐慌後に実在した政治家をモデルにしているということもあり、
その役作りがわざとらしすぎる、と見る向きもあるが、
アクの強さと同居する憎めなさとを醸し出して、私は好きだ。
「目的のためには手段を選ばず」の押しの強さが、あまり嫌味になっていない。
ミシシッピの湿地帯に孤立する前時代的な退廃金持ちワールドを出自に持ち、
「自分さがしの旅」の途中のモラトリアム男ジャックに扮するにジュード・ロウ。
彼の、「父親」的存在を求め続け、
一方で母親を愛しながら憎み疎む心の葛藤が、この映画の横糸。
時代の寵児たるウィリーの「正論」に心酔して始めたことなのに、
気がついたら悪事の手下になりさがっている自分を
肯定もできないが、だからといって後にもひけないジャック。
この悲喜劇的状況を
母親と同じようにただ自嘲しながら流され受け入れていくところに、
人間の弱さが凝縮されている。
みんながみんなウィリーのように
ブルドーザーよろしく人生をもぎとっていくだけのバイタリティを有するわけではないのだ。
男たちは丁寧に描かれるも、女性については少々類型的。
もの言わぬ妻、
公私ともに仕える「秘書」、
若い愛人、
過去の栄光にすがり、酒に溺れる女……。
ちょっと「華麗なる一族」っぽい。
この映画を撮影した後、ミシシッピはハリケーン・カトリーナによる大被害を被り、
水没した被災地を、ショーン・ペンは精力的にまわって支援した。
まるでウィリー・スタークのように…とも言われたとか。
ルイジアナは、100年経ってもやっぱり貧富の差が歴然とした町のままだった。
この作品、実はリメイクである。
最初の作品はこちら。

オール・ザ・キングスメン(DVD) ◆20%OFF!
時代設定は世界恐慌の直後。
話自体はもちろん同じだけれど、
ウィリーに血のつながらない養子の男の子がいて、
彼の去就をめぐり、ウィリーと妻の心模様にスポットライトが当たる。
またリメイク版ではアンソニー・ホプキンスが演じ
最後の最後に「えー??」というどんでん返しを運ぶアーウィン判事は、
そこまでの役割を担ってはいない。
大ざっぱに言って、
リメイク版はジャックとその故郷の人々(つまり没落ブルジョア)にかなり入り込んで描いているが、
オリジナル版はウィリーの家族(庶民→成り上がり)により焦点を当てている感じ。
そういうのも、時代の要請なのかもしれない。
どちらを好むかは人によるだろうが、
まとわりつくような南部の湿った空気と謎めいた退廃の薫りを楽しみたければ、新作を、
1930年代のアメリカの雰囲気と、人々のストレートな気持ちの動きを味わいたければ、旧作を。
私は、けっこう旧作がツボでした。
ちなみに、旧作はアカデミー賞まで獲ったのに日本では公開されなかった。
監督のロバート・ロッセンは、ハリウッドに吹き荒れたレッド・パージの犠牲者の一人です。

舞台の最近記事

  1. 内博貴主演「シェイクスピア物語」

  2. 演劇界休刊の衝撃

  3. 動画配信を始めました。

  4. 「桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡」@吉祥寺シアター

  5. 8月・カンゲキのまとめ

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。


Warning: Undefined variable $user_ID in /home/nakanomari/gamzatti.com/public_html/wp-content/themes/zero_tcd055/comments.php on line 145

PAGE TOP