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「嫌われ松子の一生」


 【DVD】嫌われ松子の一生邦画
中谷美紀の「女優」を捨てた女優魂炸裂で、
最優秀主演女優賞を涙で受賞したのも記憶に新しいですね。
原作は小説で、後にテレビドラマにもなりましたが、
私はこの映画がいちばん好きかも。
CM製作出身の中島監督の、
「語りすぎてかえってリアリティをなくす」間違いに陥らない匙加減と、
このあまりに悲惨な話にはちょうどいいくらいのメルヘンタッチが
本当にいたらウザイだろう主人公をものすごく魅力的にしていると思う。
そしていちばん感じちゃうところは、
これが「キャッツ」のグリザベラの話だ、という点。
「キャッツ」を知ってる人は、みんなそう思うみたい。
だって、
まずは晩年の松子(中谷)の着ているものが、グリザベラだから。
その上、荒川べりには満天の星。
今にもただ一匹のジェリクルキャッツを迎えに、光の輪が降りてきそう!
と思ったら、
やっぱり階段を昇って昇天していくのでした。
…って、私、揶揄してるんじゃありません。
すごく素敵なストーリーです。
父親(柄本明)に振り向かれたい一心の松子の作り顔と、
笑顔一つ惜しむように接しながらも日記の一文「松子からの連絡なし」に現れる
不器用すぎる父親の愛の行き違いにも切なくなるけれど、
それより私が最も衝撃を受けたのは、
せっかく松子と深く愛し合いながら
「愛される」ことに慣れない洋一(伊勢谷友介)が、
刑務所の中で「出所しても松子のもとには戻るまい」と決意してからの物語。
すさんだ生活で再び獄につながれた洋一は、
聖書と出会います。
しかし、洋一に神は見えない。
そこで牧師は彼に言う。
「あなたは、いちばん嫌いな人を許すことができますか?」
洋一は答える。
「できません」
「それでいいのです」と牧師は言います。
「人間に、それはできない。しかし神はできるのです」
そのとき、洋一の脳裏に松子の姿が浮かんだのでした。
騙しても、裏切っても、殴っても、他の男にあてがっても、
それでも松子は必ず洋一を笑顔で迎える。
「松子こそ、オレの神だったんだ!」
…ここのところ、とっても好きです。
私はクリスチャンではないので、
聖書とかキリスト教とかは、歴史や哲学の一部としてみることが多いです。
この世界にゴマンとある宗教のなかでも、
厳密なる「一神教」はユダヤ教とキリスト教、イスラム教くらいなものだそうです。
宗教の勉強をちょっとしたときに教わりました。
「多神教と一神教を同じ宗教という枠でくくってはならない」と。
それくらい違うものなのだそうです。
日本人の多くは無宗教と思われがちだけど、
そして自分を無宗教と思いがちだけど、
無意識のうちに多神教っていう感じがする。
八百万の神、ていうか、人は死んだら神になる、
鏡も神、刀も神、生きてるものも無機物も、
なんにだって神が宿り、神になれる土壌をもっている。
だからクリスマスも七五三もチャペルの結婚式も破魔矢も除夜の鐘も、
座敷わらしも妖怪も、なーんでもござれ。
そんな日本人にとって、
キリスト教の教えは非常にストリクトに感じられることがある。
私なんざ、「人間は神の道具」って言われたその途端、もうダメなの。
私、「Instrument」なわけ?って。
自分じゃ考えちゃいけないの? 自分で考えたつもりでも全部神のご意志なの?
ゴーマンこのかたないけど、どうしてもすんなり受け入れられない。
でも、洋一は、
アタマじゃなくてハートで感じたんだよね。
人間は、
自分の内なる体験と照らし合わせることでしか、
物事を真に受け入れられないところがあります。
だから、
まさに「右の頬を打てば左の頬を出す」松子の愛に、
洋一は「神」を見たのでした。
そして、
それが洋一の救いになったのですね。よかったよかった。
もちろん、
この牧師さんのひと言がいいよね。
「許せなくて当然です。人間だから」
不完全な自分を卑下していた洋一にとって、
まずはその不完全さを受け入れさせてくれた、素敵なコトバです。
この出会いが、もっと早ければ、もっとよかったのに、と思えてなりません。
このエピソードによって、
ああ、だからグリザベラはたくさんのキャッツの中から選ばれたのね~って、
今さらながら「キャッツ」について、深~く納得してしまう私なのでした。
グリザベラ

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