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「硫黄島からの手紙」


まず、クリント・イーストウッド監督の「意志」に敬意を表したい。
アカデミー賞の前哨戦と言われるゴールデングローブ賞に
個人賞としては監督だけがノミネートされ、
日本人俳優が選ばれなかったのは残念ではあるけれど、
監督の思い一つからこの壮大で革新的な試みがハリウッドで行われたことを考えれば、
当然ともいえる。
「私が観て育ったほとんどの戦争映画では、どちらかが正義でどちらかが悪だった」
「前線で死と隣り合わせになって戦った兵士たちは、
いくら勲章を受けても戦場のこととなると、口をつぐんでしまう」
こうした自身の経験から、彼は日米両方の視点で戦争を描こうと思い立つ。
彼と気持を同じくして仕事にあたったアイリス・ヤマシタの脚本がいい。
アメリカ側の資料をもとに造ったシナリオを日本に持ち込み、
日本の専門家に事実の検証をしてもらっている。
遺族から、日本軍の兵士の気持も聞いている。
こうした努力が、実際に硫黄島で戦った人(遠藤喜義氏)に
「我々当事者が、伝えたいことがよく描かれていました」とまでいわせる
真実の作品となったのだろう。
私個人の意見としては、二宮和也が演じる西郷が、
人前で「もうだめだ~」と投げやりに呟いたり、
明らかに厭戦を表情に表すところなどには
「戦時中の日本人に、こんな人はいたかなー」と思った。
むしろ、元憲兵・清水(加瀬亮)の、優等生行動なのに本当は揺らいでいる、
そうした描写の方がリアルに感じた。
しかし、遠藤氏の
「いよいよ米軍上陸で全員死を覚悟したとき、若い兵はうつむいていたが、
 妻子のある年配兵はかえって泰然自若としていた。達観していたのでしょう」
という言葉や、
「私もいつか誰かに見つけてほしいと日記を埋めました」という事実に、
たとえ口に出さず、顔には出なくても、
すべての兵士が西郷であり、清水であったんだろうと合点がいった。
遠藤氏が設立に寄与した「硫黄島協会」は、この映画製作に全面協力している。
「硫黄島協会」が日米を問わず、この地で戦った人とその遺族、そして元島民で成り立ち、
毎年日米合同追悼を行っているという事実には、映画以上の重みがある。
『散るぞ悲しき』は渡辺謙が扮した栗林中将の戦いぶりを描いたノンフィクション。
これをまとめた梯久美子さんは、硫黄島にも赴き、
「この地でいかに死んだかではなく、いかに生きたかを描きたい」と思ったそうだ。

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