映画・演劇・本・テレビ、なんでも感動、なんでもレビュー!

  1. 映画
  2. 15 view

「遥かなる帰郷」

ドイツ軍によって強制収容所生活を余儀なくされていた人たちは、
連合軍が収容所を解放した時、すぐに出ようとはしなかったという。
「彼等はおずおずとあたりを見廻し、問いたげにお互いの目を見合わせるのであった。
それから…(中略)…最初のおどおどした一歩を踏み出すのであった」
(フランクル「夜と霧」より)
もはや、逃げ出したいという欲求さえ奪われていた、という言い方が正しいのかもしれない。
私は「夜と霧」よりはやく、このシーンを「遥かなる帰郷」で目撃しました。
この映画の主人公の実在モデルであるイタリア人プリーモ・レーヴィは、
フランクルと同じく、収容所から生還した一人です。
ユダヤ人ではない収容者はたくさんいたのです。
私が一番好きなシーンは、
一人のソ連兵が、フレッド・アステアのまねをして、音楽に合せ踊るところ。
窓越しにそれをじっとみつめる解放された人々。
収容所を出たからといって、すぐに精神が回復するわけではなく、
彼らは帰郷の道すがら、ずっと無表情です。
ところが、このソ連兵の気楽なダンスと音楽によって、ある変化が訪れます。
男達は、無言で女達をダンスに誘うのです。
暗がりでの強姦ではなく、ダンス。
心と心が触れ合う日常が戻る一瞬。人々の瞳に光が、口元に笑みが蘇えっていく…。
音楽が、ダンスが、私たちの心の幸せの素だと実感できる場面です。
これはプリーモ・レーヴィの自伝的小説「休戦」の映画化です。
解放から40年余りたっての映画化を彼は許可しましたが、映画の完成を見ることなく自殺しました。
その事実は重い。
けれど映画はプリーモがまだ希望を信じていた頃を映し出していて、
どこか清々しく、桃源郷の霞の中を歩くような感覚を覚えました。

映画の最近記事

  1. 「三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」

  2. 紀里谷監督のインタビュー記事をアップしました

  3. 「FOUJITA」~藤田嗣治の戦争画を考える

  4. ガメラ、ゴジラのいる映画館前のレッドカーペットを歩く

  5. 「ザ・ウォーク」

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。


Warning: Undefined variable $user_ID in /home/nakanomari/gamzatti.com/public_html/wp-content/themes/zero_tcd055/comments.php on line 145

PAGE TOP