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シネマ歌舞伎「鷺娘」


坂東玉三郎舞踊集 2 鷺娘(DVD) ◆20%OFF!
舞台中央から後ろ姿の玉三郎がせり上がってくる。
白無垢・綿帽子に黒い帯、半透明の蛇の目傘。
この傘が、まず美しい。
傘骨は黒く地は半透明で、差すと中央から薄墨・白・薄墨と、白い同心円が浮かび上がる。
このグラデーションの模様だけで、すでに幻想的。
その傘を扱う玉三郎が、また絶品。
手元とともに、小刻みに傘が震わせている。
ちらつく雪がやんだかと手のひらでそっとたしかめると、
半分すぼめた傘をしゃん、しゃん、と二度ほどゆすって雪のしずくを落とすしぐさの品のよさよ!
静々と進むすり足や、ゆっくりと身をよじる仕草は女の振る舞いだが、
時々片足を30センチほど浮かせて止まる足さばき、
白い振袖の袖口を丸くつかんで胸に抱き、体を縮めたかと思うとパッと広げるそのさまは、
まさに雪原で、たわむれに羽根をはためかす鷺のよう。
この人、舞いながら幽体離脱して、
自分の立ち姿をどっかで監視してるんじゃないか?と思うほど、
どこから見ても隙のない完璧な形を常にキープ。
背景の美術がまた素晴らしい。
青みがかった鈍色(にびいろ)がたなびく雲のようにうっすらと東西に続く。
銀色に光るススキの穂が、その手前に少しずつ立っている。
その全面で踊る白無垢に黒帯の玉三郎は、どの一コマを切りとっても日本画になろう。
重さを感じさせず、自在に操られスピーディーにそこかしこの空を切る傘の、
モノトーンな色合いが淡いアクセントとなって、さらに全体を引き締めていた。
中盤は、曲もにぎやかに。
衣装も引き抜きで深紅、桜色、江戸紫、と色が入って華やかに。
町娘風なおきゃんな女性になった「鷺の精」は、
素早く何度も衣装を変えながら、恋に胸ときめかす女の幸せを舞う。
しかし、
傘にかくれた何度目かの引き抜きで、
一瞬赤い襦袢姿になった彼女の顔には絶望と憤怒が宿り、
次の瞬間、
今度はその赤い襦袢もどこへやら、真っ白い羽二重の衣装に身を包んだ姿へ。
「娘」は恋に破れ、「鷺」へと戻っていく。
こまかく羽根の縫い取りがしてある羽二重は、
激しく振り出す雪の中でキラキラ光る。
吹雪の中で舞っては倒れ、起き上がり、また倒れ、再び立ち上がり、力をふりしぼり…。
鷺娘は運命に抗うように、
舞い散る雪のそのまた向こうにある何かを求めるようにみつめ続けるが、
やがて力尽き、こときれる。
舞台の中央でこんもりとした白いかたまりは動かない。
まるで雪に埋もれるよう雪景色と同化したまま幕が下りる、
その静謐さに、見る方は厳粛な気持ちにさえなる。
以前は最後大きく袖を羽ばたかせる演出だったのを、
玉三郎がこのように変えた、とのこと。
1984年、ニューヨークのメトロポリタンオペラ劇場の100周年記念公演で、
バレエの大御所・マーゴット・フォンテーンやルドルフ・ヌレエフなどとともに
この「鷺娘」を踊った坂東玉三郎は、
目の肥えた西洋の観客にも驚異と感激を与え、今も伝説的に語り継がれている。
たしかに、
この「鷺娘」、まさにバレエでいうところの「瀕死の白鳥」。
「瀕死の白鳥」が並のバレリーナに踊れないのと同じように、
この演目も踊り手を選ぶ。
また、
杵屋直吉以下の唄がよかった。
玉三郎の踊りにねっとりとまとわりつくような艶のある声。
ラスト、吹雪の中で鳴り響く笛(福原友裕)の音の鋭さにもハッとする。
いよいよ、歌舞伎とは芸術の粋であると実感。
その底力に腹の底から震え上がるのは、「鷺娘」と同時上映だった「日高川入相花王」。
これについては、明日。
*シネスイッチ銀座での上映は昨日で終りました。
 予告映像がこちらで見られます。

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