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「ボレロ」


Bolero 熊川哲也&ローラン・プティ(DVD)
「ボレロ」はあまりにも有名な、ラヴェルの3拍子の音楽。
時代劇・水戸黄門のテーマソングさえ、これにインスパイアされて作られたというから、
おそるべき曲である。
そして・・・。
バレエで「ボレロ」といえば、ジョルジュ・ドン。
映画『愛と哀しみのボレロ』で世界中に知れわたった
赤い丸い舞台と、その上に立つ黒いタイツのダンサー。
静かに始まり、次第に力を帯び、そして熱狂のラストまで、
打楽器の生命力がすべてを覆い尽くすベジャールの振付は見事で、
誰もおいそれとは「二番目」に手を挙げられなくなっていた。
ドンが逝ってしまった後も、シルヴィ・ギエムなどが、
ベジャール版を踊っている。
「ボレロ」といえば、モーリス・ベジャール。
それが、世界の常識だった。
プティと熊川がタッグを組んだ、1999年までは。
ローラン・プティは、20世紀のバレエの一時代を作り上げた一人。
プティとベジャールは双璧である。
彼らが第二次大戦前後に作った作品は、今も斬新さを失わず、踊り続けられている。
プティに、ベジャールへの敵愾心がなかったといえば、嘘になろう。
Bunkamura10周年記念という触媒が、二人を引き合わせた。
1924年生まれのプティと1972年生まれの熊川。
「ダンスが好きで、いたずら好きな少年」二人は
48歳という年の差をものともせず、すぐに意気投合したという。
そして出来上がった「ボレロ」は
ベジャールの「実存主義的生命力の発露」とはまったく異なった
パリの酒場の一角で繰り広げられる、
デカダンスな男の、洒落た一幕となって現れたのだ。
帽子、椅子、煙草。
プティの作品に欠かせない小道具と、熊川。
15分間たった一人で、止まることなく踊り続けるという
ベジャールとドンさえやらなかった冒険。
ベジャールは、「ボレロ」を踊る人を限定しているが、
プティの「ボレロ」は、まず踊れる人を探すほうが難しい。
プティにとっても、これは特別なバレエになったのではないだろうか。
私はDVDに収められている初演が好きだ。
熊川は、老獪な童子のインスピレーションを真摯に受け止め、
ある意味「熊川らしさ」を脱ぎ捨て、プティのエスプリを体現している。
その後何度か再演されたパフォーマンスには、随所に「熊川」らしさが入っていたように思える。
踊りやすさからくるのか、表現したいものの発露からくるのか、
私にはわからない。
それはそれで、素晴らしいのだが、「プティのボレロ」を完璧に踊ったのは、初回だ、と思う。
この初演に際し、評論家の三浦雅士氏は
「可能性のかたまりと言っていい日本の若獅子は、そのすべてを一挙に開花させてくれるコリオグラファーの登場をひたすら待ち望んでいるように見える。ローラン・プティがそのコリオグラファーになるかどうか予断を許さない。ただ、このコクトー直系の弟子が、熊川哲也に新たな跳躍の契機を与えるだろうことは疑いない」と文章を寄せている。
現在、熊川は自ら古典の再振付をしながら、「若者と死」などプティの作品も踊っている。
オリジナリティあふれる稀代のコリオグラファーとの出会いは、
それまでロイヤルで培った古典の王道と化学反応を起して、
熊川哲也を芸術監督への道へと誘った感がある。
1999年がKバレエ発信の年であったことは、象徴的でさえある。

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