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「ロミオとジュリエット」@Kバレエ(3)

(1)の続き。
二幕は、
まずはマキューシオ(橋本直樹)。
マキューシオは熊川版でも見せ場が多いダンサー。
驚異の体力で
一幕から次から次へと素晴らしいパフォーマンスを繰り出していたが、
いわゆる「マキューシオの死」では、
刺された後に技巧に走らず、非常にリアルな演技をした。
顔の表情にも現実味があり、
痛いけど、つい「大丈夫」と言ってしまう、
でも言いながら、これはダメだな、と自分では思っている、
でも自分でも、なんとか助かりたいと思って、助かるはずだと思いたくて、
傷ついた体でまたティボルトに立ち向かっていく…。
倒れ方も含め、完璧な俳優だった。
日本人がシェイクスピアをやるときに、
どうしてもヘンなのが、剣さばき。
フェンシングの型になってないから。
半身ではなく正面むいて、剣道になってる。
もうそれはどうしようもないんだな。
どうしようもないので、フェンシングのマネじゃなくて、
迫力ある殺陣にしようっていうのが、熊川流のように感じた。
1対2あり、二刀流あり、
剣の場面は舞台が狭く感じるほどで、
本気で「大丈夫?」と心配するほど。
真剣さが伝わってきた。
この「戦い」の場でも一幕に伏線が張られていて、
今までのロミジュリだと、
ロミオはジュリエットと結婚して
急にティボルト(清水健太)と仲良くなろうとするんだけど、
この熊川版では、
基本的にロミオは喧嘩っ早くないし、
できれば穏便にっていう性格だということを先に見せている。
その上で、
マキューシオとティボルトのいさかいをとめようとするけれど、
結局マキューシオが殺されてロミオの中で怒りがはじけてしまう。
ここからの、ロミオの剣さばきがすごい。
世界卓球女子で、「平野の後ろに炎と鬼が見えた」って書いたことがあるけど、
あれに近い。
何かがのり移ってたたみかける感じ。
剣が弱くて戦ってなかったんじゃなく、
腕はあったけど剣をとっていなかった、というのが見えてくる。
何でもないようなことかもしれないけど、
「ロミオとジュリエット」っていうのは、ストレートプレイでも、
ロミオよりマキューシオのほうが人気があって、
ロミオは軟弱で考えなしのお坊ちゃまという感じが拭えない。
そこを、
「やっぱりロミオが主人公」と思わせるかっこよさを
しっかり入れているのは、
私は演出家として優れていると思うし、
その「かっこよさ」を瞬時に表現できる熊川に
やはりただものではないダンサーである証明を見る思いである。
広場のシーンでいうと、
このプロダクションは非常に「見せ場」が多い。
一方で物語性、ドラマ性を大切にしながら、
広場の場面ではたくさんのダンサーがよく踊る。
特に男性ダンサーはよく跳びよく回るが、
みな非常に高く、揃っていて気持ちがよかった。
考えてみれば、
プリンシパルの清水、松岡、ファーストソリストの橋本と、
主役を張れるダンサーが脇を固めているのだから、
最高の出来は当然なのかもしれない。
ソリストの伊坂文月のベンヴォーリオも遜色なく見事、
それ以外のダンサーのパフォーマンスも質が高かった。
ティボルトの死以降はダンス的な派手さはなくなるが、
その分、ドラマはここからがクライマックス。
そのとき、
音楽から最大限ドラマを引き出す熊川の手法がいよいよ光る。
短調と長調をしっかりと感情の起伏にあわせる。
楽器の違い、音の掛け合いを役に振に分ける。
ちょっとしたサブメロディにも意味を持たせる。
だから教会に救いを求めに走る場面でも
「神父さま、どこですか?」
「おお、神よ」
「あ、神父さま、そこにいらしたんですか」
神父の登場も「おや、どうしましたか?」
……まるでセリフが聞こえるよう。
熊川は、音楽を演劇的に解析する天才だ。
彼に手や足がなかったとしても、
彼はきっと音楽や舞台の仕事で大成しただろうと確信する。
ロミオの造形も感慨深い。
ティボルト殺してジュリエットと新床、
朝が来ればほとぼりが冷めるまで遠くに逃げるっていう
ほんとにダメンズなわけだけど、
そこを熊川は
「君の大切な従兄を殺してしまって、もう君とは一緒にいてはいけないんだ」
というふうに見せる。
それをジュリエットが許さない。
「だめ、絶対だめ、行かないで! 行ったら私は嫁がされるのよ!」
花嫁衣裳を手にとって、ロミオの前で叩きつけるジュリエット、
それを見て自分のやってしまったことの大きさに押しつぶされるロミオ、
ジュリエットのを思いつつ、ロミオの身も案じてマントを着せる乳母。
「あれはひばり…」のセリフになぞらえて、
外を見ては行って、行かないでと揺れるジュリエット。
離れがたい二人の最後の抱擁の余韻のあるまま、
パリスと両親に会うジュリエットの心の動揺が
観客にも伝わる。
ここからは、
ジュリエットの独壇場である。
康村和恵のジュリエット造形に舌を巻く。
まさに女優。
顔の表情ひとつで、今何を考えているのかわかる。
それも、音楽とのシンクロを十分に考えているからだろう。
自分の運命をのろったり、
何とかしなくてはとがんばったり、
自分を持ちこたえられなくなったり、
ロミオとのひとときを思い出したり。
毒のビン一つと向き合いながら、
ロミオにもらったロザリオをロミオに見立て、
彼に力をもらおうとする演出も冴えた。
毒をあおってのたうちまわりながらも、
ころがったビンとフタをかきあつめて枕元まで這い上がって隠したり、と
芸が細かい。
ジュリエットの気持ちが、舞台にあふれている。
圧巻は墓所の場面。
暗い墓所で仮死状態から覚醒したジュリエットは、
まず「こわがる」ところから始まるという演出もある。
でも康村ジュリエットは、「喜ぶ」。
「やった! 死ななかった! これでロミオと一緒になれる!」
そして傍らにロミオ発見。
「約束どおり来てくれたのね!」
しかし倒れているロミオ、その上、近くにやはり倒れているパリス。
自分が思っていたことと違う結末になっていると覚ってからの
ロミオを失ったジュリエットの悲しみの深さに
私は涙が止まらなかった。
たくさんのロミジュリを見ているけれど、
墓所でのラストシーンにこれほどの衝撃を受けたことはない。
愛する人を失った絶望。
家と家との対立とか、
憎しみの連鎖とか、
「ロミオとジュリエット」はそうした部分から読み解かれることが多い。
しかし、
熊川のロミジュリは、
ただ愛する二人の物語である。
どんな人でも共感できる、愛の物語。
求めた愛のために突っ走る青春。
一瞬の美しさ。
いい舞台だった。
本当に、いい舞台だった。
最後に。
指揮の福田一雄氏の功績も大きい。
音楽もよかったです。
東京文化会館は、本当に音がいい。
DVD、出たら絶対買います。

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