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Kバレエ「クレオパトラ」@東京文化会館

それがバレエでなかったものを、
バレエとして表現するとはどういう作業だろう。
それが音楽でなかったものを、
音楽として表現するとは、どういう作業だろう。
謎多き実在の人生に、
物語を与えるとはどういう作業だろう。
そこに、確固たるコンセプトが存在しなければ、
どこかで見たような、何かで聞いたようなものばかりになってしまうはず。
どこにも存在しないオリジナリティを持ち、
かつ、観る者に安心感を与え、心情を想像しやすい様式を用いる。
それは歌舞伎の新作に、古典歌舞伎の手法を用いるもののように思えた。
新作だけれど古典の文法。それは、この新作バレエが古典になりうる要素でもある。
一幕目はエジプトを意識したつくりになっている。
序盤のまがまがしさは、彼が英国ロイヤルバレエでオリジナルキャストの一人を務めた
ブリテンの「パゴダの王子」(マクミラン振付)をほうふつとさせる。
カエサルがキャシディという西洋人であることが、はからずも
東洋対西洋のコントラストを鮮やかすぎるほど示していた。
クレオパトラの中村祥子の突出した魅力によって圧倒されるが、
クレオパトラやプトレマイオス(山本雅也)以外のヴァリエーションは音楽・振付ともいまひとつ。
エジプト王朝の権力闘争にローマ帝国との関係がどう関わっていくか、
場面がどうしても説明的になる。
これから更なるブラッシュアップが期待される。
それに比べて第二幕の見事さには舌を巻いた。
たしかにこの作品ならではのモチーフとなる音楽と振付は
序曲や一幕のクレオパトラのソロが担っているかもしれない。しかし
二幕はクラシック音楽として耳馴染みのよい音楽にのせて
クラシックバレエとしての技術が散りばめられている。
その技術の一つ一つが、重要なシーンの盛り上がりを加速こそすれ妨げない。
二幕だけで、白鳥の湖の二幕のように、このままいつでも上演できる。
一幕目、切れ者かつ絶世の美女ながら傲慢を絵に描いたようなクレオパトラが
二幕では威厳を保ちながらも愛を知る者になっている、その変化が一瞬で見て取れるのも素晴らしい。
カエサルとの愛の日々。愛息シーザリオンをめぐるローマでの不安定な立場。
そしてカエサルの失墜。
異国エジプトの女に加担することを是としないローマ元老院の面々が、
少しずつ円を狭めてカエサルを追い詰めていくシーンなどは圧巻。
そしてアントニウス役の宮尾俊太郎が、クレオパトラに心酔していく男を好演。
カエサルよりも小者でクレオパトラの手玉にとられたとも言われている男だが、
宮尾アントニウスと中村クレオパトラの間には、たしかに愛が見えた。
終盤、二つの曲線が交わるだけの「船」が、波打つ海に浮かぶシーンは最高に美しい。
クレオパトラのもとにやってきたアントニウス、それだけで、観客も幸せな気持ちになれた。
青々とした海の照明、魂を揺さぶる音楽が、シーンを支えていた。
特筆すべきはオクタヴィアヌス役の遅沢祐介と、
その妹にしてアントニウスの妻となる、オクタヴィア役の矢内夏子である。
中村祥子と対照的な女性を、クラシックバレエの典型ともいえる滑らかさたおやかさで表した矢内、
朋友アントニウスを信頼して妹を嫁がせたのに、裏切られたアウグスチヌス遅沢の、
締まった体躯でどこまでも冷静に戦い抜く姿。
二人とも正確かつ俊敏。敵役が大きくなければ物語がつまらないではないか!
カエサル亡きローマでありながら、微塵も弱さを感じさせない。
男たちの戦闘の殺陣は、よくも怪我をしないなと感動するほどであった。
舞踊が物語に求心力を与えているのだ。
「これまでのすべてを注ぎ込んだ」という熊川の言葉の通りだと思う。
狂言回しとなる案内人役・酒匂麗のスピーディな踊りは、最初から最後まで舞台を引き締める。
ブルータス役の井坂文月は、表情の演技が素晴らしく、5階からでも気持ちの変化が見てとれた。
そして思いも書けないラストシーン!
天へと続くような階段を、死んだはずのカエサルが、プトレマイオスが、アントニウスが、上っていく。
そしてクレオパトラも……。
凛としてこちらを向いたまま、クレオパトラは誇り高く仰向けに落ちていった!
それは歌舞伎の有名な作品、通称「碇知盛(いかりとももり)」の最後に似ている。
壇ノ浦の戦いに敗れた平知盛は、「見るべき程の事をば見つ。今はただ自害せん」
そう言葉を遺し、海中に身を投じた。
死体が浮きあがって首を取られないように、碇を体に巻いて投身したと伝えられる。
そういえば、海戦が始まるときのティンパニーは、歌舞伎の幕開きのときの柝の音と同じく、
どんどん間隔が狭くなっていく打ち方だった。
「日本人が西洋のバレエをゼロから作り上げる」とは、こういうことだったのか、と思う。
どこまでも美しく、誇り高いクレオパトラを大胆に演じた中村祥子に、
最高の賛辞を送りたい。

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