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「Missing Boys~僕が僕であるために」

東京・赤坂ACTシアターで
全編尾崎豊の曲で綴るオリジナル・ミュージカル
「Missing Boys~僕が僕であるために」を観た。
流し目の早乙女太一が出て、
タップの熊谷和徳が出て、
「クローズZERO」のやべきょうすけが出て、
ロック歌手の中村あゆみが出て、
Song Ridersがバスケのパフォーマンスをやりながらラップを歌い、
藤本涼という初舞台の男の名前が一番最初に出ている、という
予告文は「これで尾崎をどうしようというんだ?」のごった煮状態。
しかし。
この一見無謀な試みは、小気味よいほどに成功している。
都会の片隅で、
自分らしく生きようともがく若者たちの、
あるいは迷い、かつての輝きを失いかけている元・若者の、
魂からほとばしり出る叫び。
それを、歌のプロは歌を通して、
ダンスのプロはダンスを通して、
あるいは一流のタップを踏んで、
あるいは3on3で、
尾崎の歌いたかった世界を表現するのだ。
前半は、
尾崎の歌をヒップホップ調にアレンジして歌ったSong Ridersが光った。
また、
尾崎桃子、中山眞美、小野ひとみの三人が歌う「Oh My Little Girl」もよかった。
コング桑田の歌うブルースにも圧倒される。
しかし、
真の感動は後半にあった。
前半はやや唐突に感じられた熊谷の超絶技巧タップも、
後半は朗読(的なセリフ)の伴奏のようにリズムを刻んでうねりも心地よい。
散らばっていたストーリーも、
尾崎がデビューしたのと同じ17歳のコーイチ(早乙女太一)、
尾崎が死んだ27歳のSong Riders、
そして30代のキョーイチ(やべきょうすけ)、ヨーコ(中村あゆみ)、
すべての人生が、共鳴し始める。
そして…。
中村あゆみの歌が尻上がりに凄味を増していくのだ。
「永遠の胸」で「なぜ生れてきたの」と絶叫する彼女の声に、
体が熱くなり、落涙。歌の力の前に立ち尽くす。
「シェリー」も素晴らしかった。
「俺はうまく歌えているか」「うまく笑えているか」
「俺の笑顔は卑屈じゃないかい」「俺は誤解されてはいないかい」
「俺は決してまちがっていないか」「俺は真実へと歩いているかい」
とたしかめるように静かに歌う中村。
生前の尾崎と親交があり、
親しすぎて、生前はお互いのライブに行くこともなかったという。
この舞台のために尾崎の歌と正面から向き合い、
「自分の歌の世界と似ていたが、彼の歌は深かった」と
改めて戦友の存在感とその喪失の大きさを感じた中村は、
「Forget-me-not」を歌いながら、涙を流していた。
彼女の、楽曲に対する深い理解があってこそ、
この舞台は成功したと確信する。
尾崎が亡くなってすでに17年。
キャストの多くは、尾崎のリアルタイムをよく知らない。
知らなくても、尾崎の「世界」は生きている。
尾崎の「世界」を、時を越えてそのアートの本質としてとらえる若者たちと、
尾崎という人間を感じながら歌う中村と。
「橋を架ける」
中村は、その役目を立派に果たしたと思う。
尾崎を見出した須藤晃の
単に尾崎の人生をなぞった「尾崎豊物語」ではなく、
ほとばしる彼のエネルギーと意思とを伝えたいという願いが
「日本語による日本人のミュージカルを」という白石久美の思いと結ばれ、
大輪の花を咲かせた。
演出は鈴木勝秀。
「ファントム」では、大沢たかおに、
「ヘドウィグ」では、山本耕史に歌わせた鈴木だが、
今回は、演技経験より歌を重視したキャスティングで、
彼の自然体な演出が功を奏している。
会心の作といえよう。
これは、事件だ。
もしかしたら、日本発のスタンダード・ミュージカルとして、
ずっと残るかもしれない。
何かのマネでなく、昔からあったものの踏襲でもなく、
演じるというより、あふれる思いをぶつけるような、
アーティストがアーティストとして自分の希望と絶望をさらけ出すような、
等身大の舞台なのだ。
そして「尾崎の歌」であることが、生半可なクウォリティーを許さない。
演じるものが、音楽に真摯に向き合わざるをえなくなる
そんなオーラを尾崎の歌は放ち続ける。
「I Love You」は、スペシャル・ゲストが歌う。
 23日昼は、アルケミスト
 4、5年前だったか、お台場のDecksスタジオ前のデッキで歌っていたのを
 聞いたことがある。
 当時からその透き通る声が美しかったが、
 歳を重ね、声量も自信も増して、ひとまわり大きくなった印象。
*フィナーレは
 「僕が僕であるために」を歌いながら、全員が通路を歩いてまわる。
 一体感のある、やさしい幕切れである。

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