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「パイレイト・クイーン」@帝国劇場

「ミス・サイゴン」でのタッグを組んだ
アラン・ブーブリルの歌詞、クロード=ミシェル・シェーンベルグ音楽の
ミュージカル「パイレイト・クイーン」は、
2006年にトライアウト、2007年に形が整った新しいミュージカルである。
グレース・オマリーという16世紀に実在した
アイルランドの海賊の女頭領を主人公に、
対極にはやはり女として同時期に
イギリスに君臨したエリザベス一世を置いて、
リーダーの資質を持った二人の生き方のなかに、
女性の幸せとは、愛とは生きがいとは、を問いかけた作品である。
グレースには保坂知寿、
エリザベス一世に涼風真世、
グレースの幼なじみで一生グレースを支えるティアナンを山口祐一郎、
グレースの父親でオマリー一族の長を今井清隆、
同じアイルランド内で勢力を争うオフラハティ族長を中川昇、
グレースが政略結婚させられるオフラハティ族長の息子ドーナルを宮川浩、
アイルランドを制圧せんとするビンガム卿に石川禅。
涼風真世が、圧倒的な存在感を見せ付ける。
イギリス女王という気品と威圧感は、立ち居振る舞いだけでなく、声にある。
何オクターヴあるのかという音域を、難なくクリアする実力と根性に、
私は改めてこの人のすごさを感じた。
グレース役の保坂も、
特に後半は声に安定感が出てくるが、
前半の曲はまだこなれていない様子。
それはティアナン役の山口にも言える。
レミゼでバルジャンをやる今井と山口が親子ほどの年齢差の役という、
ある意味かなりキビシイ役作りな山口が、
前半は歌でも苦戦。
彼の持ち味である伸びのある声が詰まってしまったのは残念至極。
しかし後半、
ドーナルとの結婚を解消したグレースの後ろ姿を見ながら
囁くように歌う「愛していると言えたなら」は、
グレースだけをまっすぐにいとおしむテイアナンの純情で溢れ絶品!
知らぬ間に涙が頬を伝う。
プロダクション全体として、
かなりストーリーに無理があるというか、
短時間でいろいろなことが起こりすぎるので説得力に欠ける部分があり、
そのせいで
ティアナンという思い人をあっさり捨てて政略結婚をするグレースに
感情移入するのがけっこう難しい。
「アイルランドのために」という止むに止まれぬ気持ちを、
イングランドとイギリスの違いもよくわからない日本人にどれだけ伝えられるか、
そのあたりがカギかもしれない。
それほど「アイルランド」が前面に出た舞台で、
特にリバーダンスは専門のダンサーも入れて目玉としている。
その中でもブライアン・シナーズとタカ・ハヤシはずば抜けて素晴らしい。
彼らのパフォーマンスは一見の価値あり。
また、イヴリーン役の荒木里佳の歌がいい。
ゴスペル的というか、アイルランドの精霊を背負ったような歌声が
劇場全体に流れると、そこが祈りの場に転ずるほど。
決して力強いわけではない。でも、魂が感じられる。心に響く。
それにしても、
政略結婚に泣き、それでもおそばに仕えますっていうのは、
一昔前なら絶対女の悲劇だったのに、
今や捨てられて泣くのは男、捨てつつ心で泣くのは女、なんですねー。
また
「仕事も男も子どもも」を実現したグレースと
「仕事のためにはすべてを捨てた」ヴァージン=クリーンのエリザベスっていう
この二人の対峙も現代ならでは。
二人が「会見」したのは事実らしいけれど、
パンフレットを見ると、
そのとき二人はすでに高齢だった。
それに
人質にとられていたのも愛人じゃなくて息子だったみたいだし。
グレースの「政略結婚」は二度もあったとか。
義とか愛とかでは測れない、
すべてを喰らいつくす肉食系の、ホンモノのグレースの物語は一筋縄ではいかず、
史実のほうが数倍面白そうだ。
この作品も帝劇の定番となっていくのだろうか。
ただのバカ息子としか思えないドーナルを、もっと魅力的に描かないと、
この話、長続きしないような気がする。
雰囲気としては、宝塚でやるともっと面白くなるのでは?
ベタなストーリーをどこまでも昇華して芸術の域まで持っていく力は、
宝塚の真骨頂。
本気で一度、いかがですか?
(こういうのって、版権とか難しいのかなー)

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