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「モーツァルト!」(山崎/涼風)@帝国劇場(その1)

観終わったとき、私はしばらくは元に戻れなかった。
私はかなりの「感動」屋で、
心揺り動かされる舞台は多い。
涙も流す。
作品全体の構造に震感とすることもある。
しかしこれほどの放心はほとんどない。
「グリークス」の第一部を観たとき、くらいしか覚えがない。
たしかに、井上ヴォルフのほうが歌は数段上手い。
音楽によるカタルシスも感じる。
体中が心地よい響きに包まれる幸せもある。
しかし、
リクツではない。
山崎育三郎のつくったモーツァルトという哀しい男がそこにいる。
ミュージカルというより、リアリズムである。
人が壊れていく過程を、私は自分の身体の中で体験した。
山崎ヴォルフの悲劇と心中した気分である。
「天才」に溺れた少年が
「残酷な人生」の修羅を生きながら「自分の足で」歩こうとした物語。
それが、
山崎による「モーツアルト!」なのだ。
(以降、一回では書ききれないので数回に分けます。それでも長いです。)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どこかマイケル・ジャクソンをほうふつとさせる
憂いに満ちた山崎ヴォルフの瞳には
天真爛漫な前半でさえも、
どこか悲劇の匂いが潜んでいて、
はしゃげばはしゃぐほど
頼りなげな、完全燃焼でないような、
もっといえば、
「違うんじゃない?」っていう雰囲気さえ漂っていて、
そう、
「天才モーツァルト」のオーラはかけらも感じられず、
「僕には才能があるんだ!」と豪語しても説得力がない。
だから、
一幕目が終わって現実に戻ると、
井上バージョンに比べて物足りなさを感じてしまうのだ。
しかし後半、私は山崎の、モーツァルト造形の凄まじさに巻き込まれていく。
自分ではそれほどの努力をせずとも
愛され、もてはやされ、喝采を受けた子ども時代。
いつも満足そうだった父親の笑顔。
本当にキラキラ輝いていた「昔」を引きずりながら
「乞食のように一文無しで」パリからザルツに戻ってきたころから、
「ありのままの」自分を誰も受け入れてくれない現実に
ヴォルフガングは適応できなくなっている。
唯一、
彼を「ありのまま」に愛してくれるのはコンスタンツェだけである。
山崎とhiroの組み合わせは群を抜いてバランスがいい。
井上だと、hiroコンスははすっぱに見えすぎて
彼に「インスピレーション」を与えるようなオーラが感じられない。
アッキーではアッキーが幼く感じられてママゴト夫婦っぽい。
それに対し山崎とhiroのコンビには、
コンスタンツェがヴォルフに惚れている、
ヴォルフがコンスタンツェを必要としている、という説得力がある。
「コンスタンツェはまさに天使だ!それなのに母親に支配されている。
まるで奴隷だ!」
このセリフの意味を、今回初めて噛みしめた。
「コンスタンツェ」を「ヴォルフガング」に、
「母親」を「父親」に替えてみればよいのだ。
2人の魂は呼び合っている。
親の価値観に縛られて、出口を見失っている無防備な魂が、二つ。
愛して愛して、だから同じくらい愛し返してほしい父親からの
無条件の愛が得られずにもがくヴォルフガングにとって
コンスタンツェは常に彼の精神のリフュージなのである。
hiroは今回、素晴らしく成長した。
「ダンスはやめられない」はコンスタンツェの生き様をさらけ出して圧巻だ。
コンスタンツェは怠け者で、
母親からは「これじゃ将来は乞食になるしかない」と言われながら育った。
姉は「あんたなら歌手になれるよ」と言うけれど、
(そして自分でもそこそこ歌はうまいと思っているものの)
将来の喜びのために今苦しい練習にいそしむことができない。
「ダンスパーティー」に毎晩でかけてしまうのだ。
これじゃいけないと思っても、「今の楽しみ」を犠牲にはしたくない。
それは
ヴォルフガングと同じなのである。
違うのは、
ヴォルフは天才で、コンスは凡人にすぎないということだけ。
ヴォルフはそこそこやっていれば名声が手に入ったが、
才能のないコンスは、ただの遊び人だ。
だから
2人の魂は呼び合う。
「今の楽しみ」を捨てられない心の弱さを
無条件でわかってくれる人だから。
そういう「ありのまま」の自分の気持ちを
共有できるから。
「ほんとはこれじゃいけないんだよね。でも、意志が弱いんだよね」という気持ちも
一緒に分かち合えるから。
ウィーンでの成功をもっとも喜んでもらいたかった父から
一つの賛辞ももらえず決裂したときも、
1人部屋で待っていたコンスタンツェが彼を救う。
2人がベッドインする場面ではエロスさえ漂う。
互いに求め合うキスは、
魂と魂が求め合い絡みつくその切っ先である。
しかし
和解のないまま父が死んでしまったとき、
ヴォルフは、精神のポイント・オフ・ノーリターンを越えてしまう。
                                (続く)

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