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「オールド・パンチ ~男たちの挽歌」

能楽師・観世榮夫氏が亡くなられた。
若い時から能楽の世界だけにとどまらず、
様々な劇空間に飛び込んでは多くの芸術家と親交を深めてきた観世氏。
彼の死を悼む記事が、各方面から後を絶たない。
観世氏は、「パラダイス一座」の一員としても活躍されていた。
私は、今年2月11日に放映されたNHK教育テレビ「芸術劇場」で、
この舞台及び舞台裏を知った。
その時書いた文章を、私はこんな文章でしめくくっている。
―「パラダイス一座」は役者の年齢・体力を考慮して、三年限りの時限活動。
次の公演ではどんなものを見せてくれるのか、
まずは一人も欠けないで、その勇姿を見せていただきたい。―
万物流転。
変わらないでいることは、難しい。
以下、その時の文章を多少加筆修正してここに載せます。合掌。
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『パラダイス一座』・男たちの挑戦
舞台は、木のぬくもりのある信用金庫の待合室。
昭和初期くらいのイメージだろうか。
カウンターとの間に金属の格子がはまっているのも古めかしい。
そして演じているほとんどの人が、高齢者。
しかし、この「高齢者」たち、タダモノではない。
その発声、その存在感、その完成度。
引き込まれるほどに、セリフまわしが達者である。 
そうこうするうち「見ろ! 知っているだろ、菊千代を!」の一声、
舞台奥のスクリーンに、能の舞台が映し出された。
うむむ、本格的な能の舞いだ。衣装もホンモノっぽい。何者?
それが有名な能楽師・観世榮夫(79)だということがわかったのは、
舞台中継の後、この公演の裏側を追ったドキュメンタリーが流れた時だった。
観世榮夫だけではない。
この「オールド・パンチ ~男たちの挽歌~」で銀行強盗集団をやる7人は、
揃いも揃って日本の演劇界を背負ってきた人たちなのである。
最高齢者は、90歳の戌井市郎。
役柄のため車椅子に座りながらも、堂々とした声量で新内節まで披露。
啖呵を切る、そのセリフ回しのかっこいいこと!
しかしてその実体は……、
1937年の文学座創立に参加、あの「女の一生」も手がけた、今も現役の演出家である。
新劇の左翼的精神を受け継ぐ瓜生正美(82)、
「ラ・マンチャの男」など商業ミュージカルを多数手がける中村哮夫(75)、
ドラえもんのスネ夫の声で全国区だが、劇団の代表でもある肝付兼太(71)、
ピアノ弾きの役で本職も現代音楽の高橋悠治(68)、
演出家でありドイツ文学者で、ブレヒト研究では日本で右に並ぶ者のいない岩淵達治(79)、
そしてこの劇が上演される本多劇場のオーナー、
というより「演劇の町・下北沢」を作った男というべき本多一夫(72)。
ただの「演劇のお偉いさん」というだけでなく、
それぞれが個性的なジャンルを確立しているだけに、
「一つの舞台」に集まること自体が「事件」なのだ。
演出はアングラ劇の寵児・流山児祥、脚本は黒テントの山元清多。
もっと言えば、チラシの写真はアラーキー、舞台美術は妹尾河童だ。
本多氏が、楽しそうに話す。
「この7人はみんな演出とか裏方で活躍してきましたが、一度は舞台に立っていますね。
今回が初めてという人はいません。ボクは50年ぶり(笑)。
でも、威張れません。みんな60年、70年ぶりなんだから」
戌井氏も、いたずら坊主のような目で語る。
「僕は90になったから、何か新しいことをやりたいと思っていた。
まあ、演じてもみたかったが、そういう機会もないと思っていたところ、声がかかったのでね」
―90になったから新しいことをやりたい―
未来の見える90歳! まだまだ歩くべき道を探る90歳!
妹尾河童は舞台となる信用金庫を作る上で、「ホンモノ」感にこだわったという。
「フツウの芝居なら、若い人が老けたメイクをして出てくる。
しかし、今回はホンモノの老人が老人として出てくるんだ。
その風格、年輪。
存在感はものすごいものがある。
だから、舞台もホンモノの香りがしないとダメだと思った」
脚本の山元も、出演者の人生に取材し、感情をこめて言えるセリフをあてたらしい。
彼らが馴染んだ演劇の名場面もあちこちで顔を出す。
ここには、日本人90年の歴史が詰まっている。
老いるということは、満ちるということ。
その肉体に、居心地よく人生が寛いでいる。
生きているとは、なんと素晴らしいことなのだろう。
「パラダイス一座」というネーミングには、そんな人生賛歌が溢れている。
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*この作品は「七人の侍」がヒントになっていて、
 「菊千代」など、登場人物の名前も映画からとっています。
*2月時点で文章を書くにあたって、以下のサイトを参考にさせていただきました。
 真の主役は「演劇愛」 温かさに包まれた一座の船出(西洋演劇理論研究・村井華代)

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