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「重力ピエロ」


重力ピエロ 特別版
「春が二階から落ちてきた」
という書き出しから、
映画「重力ピエロ」は実に原作に忠実に、そして巧みに映像化し
女の子が放っておかないほどの美形でありながら硬質なかたくなさを持つ
次男・春を岡田将生が、
そんな長男とは違って不器用だが誠実さがにじみ出てくる長男・泉水(いずみ)を加瀬亮が、
東京でモデルをしていたのにこうと決めたら仙台におしかけ女房してくる
きれいで、大胆で、芯の強い母を鈴木京香が、
風采の上がらない穏やかな田舎の小役人といった体をなしながら、
実はインテリで自分をしっかりもって絶対にひるむことをしない父を小日向文世が、
いずれも好演している映画である。
本当に「生みの親より育ての親」なのか、環境は遺伝を越えられるか、という
非常にナイーヴなテーマについて、
この作品は、
もっともラディカルな形で問題提起している。
自分の、あるいは兄弟の、子どもの
存在意義をつきつめればつきつめるほど迷路に迷い込むしかない、
その苦悩と焦燥の発露が、
連続放火事件と落書きと遺伝子の中のDNA二重らせんとをキーワードに
謎解きサスペンスの形で描かれていく。
その「解決」の仕方もラディカルで、
人によっては(というか、おそらく大半の人が)
結末に手を叩いて喜べない未消化感を抱くと思う。
渡部篤郎が、最悪の卑劣漢を熱演しているおかげで、
多少溜飲が下がるものの、
「これでいいのか?」という疑問はどうしても残る。
映画では一切の「なぜ」を排して
今そこにある家族のスクラムだけを是とし、
この親子を最後まで温かく、実に温かく見守っている視線を強く感じる点も、
かえって居心地の悪さにつながっているように思える。
その点では
原作は良心との対話がところどころに表されていて、
救われる。
梅毒で脳を冒されて死ぬしかない人に、
梅毒を熱で殺すため、マラリアに感染させる。
マラリア自体、危険な病気だが、
梅毒で死ぬくらいなら、マラリアで死んだほうがいい。
「それと同じかな?」と問う弟・春に、
兄・泉水が「そうだよ」と答えようとして思い直し、
「全然違う」と言い放つ場面が素晴らしい。
そして、そのときの弟・春のリアクションも。
彼らが単なる「怒り」や「苦しさ」「悲しさ」ではなく
「重力」に支配されている、その逃れられない重苦しさが
立ちのぼってくる度合いは原作のほうが強い。
ストーカーあり、空き巣ありといった犯罪だらけの無法地帯が
かえってストーリーの不整合というか、アラを隠し、
テーマだけに集中できるのかもしれない。
映画では親子の情が、
原作では兄弟の情が、
より鮮明に描かれている、という気がした。

重力ピエロ

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