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「アルルの女」@Kバレエ「トリプル・ビル」

イチローは、1973年10月生まれである。
一方、
熊川哲也は1972年3月生まれ。
職人肌のイチローが体型を維持し続け、
打撃、走塁、守備の三拍子を完璧にこなし、
選手一筋で続けているのに対し、
熊川はダンサーのみならず、バレエ団を経営し、
バレエスクールを立ち上げ後進を育て、
古典作品を再振付して芸術監督を担い、
かつ自らも主演するという日々を、
ほぼ20年にわたって続けている。
かつて「ダンスマガジン」において某評論家に
若き熊川は「熊川のようなタイプのダンサーに成熟はないし、求めるべきでない」と評された。
彼もまた、
「年齢による衰えを自覚してもなお、アプローズを忘れられずに舞台に立つことをよしとしない、と
発言して憚らなかった。
だから44歳の自分がまだ踊っていることに、
一番戸惑っているのは熊川自身かもしれない。
観客はまだまだ彼の舞台を求めているし、
実際どんなダンサーにも真似できないパフォーマンスは健在だ。
今回「アルルの女」で恋する男の狂気を踊る熊川のクライマックスを見ながら、
プティの振付の凄まじさを見せつけられるとともに、
その振付を頭と体で理解し踊り切る熊川にも、新しい境地を感じた。
ふと、ジョルジュ・ドンの肉体が重なって見えたのである。
それは幻想だったかもしれない。
T氏の求める「成熟」とは異なるかもしれないが、
たしかに熊川にも「成熟」はあると思う。
しかし。
熊川をみつめ続けてきた来し方を反芻するにつけ、
鍛え上げられ、胸から腹へ、ぱっくりと割れた上半身の見事さとは対照的に
大量の汗と、
カーテンコールでいつまで経っても収まる気配のない激しい呼吸を見るにつけ、
私はあと何ステージ彼の最高のパフォーマンスを見られるのか、不安になる。
「成熟」なんかいらないから、
いつまでも、どうだと言わんばかりの、200%人を驚かすような
思わず「あっ!」と声をあげてしまうような、
そんなステージをいつまでも期待してしまう自分に呆れてしまう。
頭に白いものが少々目立つようになった以外は、
10年前と体型もほとんど変わらないイチローは、
現在、メジャー通算3000本安打まであと9本にまで迫っている。
おそらく彼は軽々とこの一里塚を過ぎ、次の一里塚に向かって淡々と進んでいくのだろう。
そして熊川は?
私はただ、彼の次の一手を固唾をのんで待つばかりである。

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