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「回転木馬」

銀河劇場で「回転木馬」を観る。
有名なミュージカルだが、観るのは初めて。
「回転木馬」の客引きをしているビリー(浦井健治)と
その「回転木馬」の近くの漁村の工場で働くジュリー(笹本玲奈)との
突然の恋の火花と電撃結婚、そして
蜜月になりえなかった2カ月の末に起こった事件を追った物語。
「回転木馬」とは、移動遊園地の代名詞みたいなもので、
サーカスもあればマジックもある。
ビリーはイケメンで、
いわば「よってらっしゃい見てらっしゃい」をやって
女の子たちを回転木馬に乗せて木戸銭稼ぐ、みたいな商売。
ものおじせずまっすぐに自分に向ってくるジュリーに
「今まで会ったことのない」タイプを感じて惹かれるビリー。
マジメな女の子ジュリーが工場の宿舎の門限をあっさり破るという入れ込みようで、
二人は結ばれるが幸せな結婚生活を営めない。
香具師のような生活に慣れているビリーにニシン漁のような仕事は性に合わず、
堅気の商売には興味を示さないからだ。
かといって「回転木馬」に戻れば、女主人マリン(風花舞)の誘惑が待っている。
仕事はしなくてもジュリーへの愛はホンモノのビリーには、それはがまんできなくて、
ただただフラストレーションがたまる一方。
そこへ「金もうけ」の手伝いをしないかと近づいたのが、ごろつきのジガー(川崎麻世)。
最初は断っていたビリーも、
ジュリーに子どもができたと聞いて、気持ちが変わる。
しかし加担した「金もうけ」は、
決して二人と生れてくる子どもを幸せにはしなかった……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ジュリー役の笹本玲奈は、さすがにいい声をしている。
舞台中央でしっかり劇場を支えられる音程の確かさと表現力。
ビリーの浦井健治は、声の艶という点ではまだまだだが、
すさんだ中にも繊細なビリーの心理を表情でしっかり表しており、敢闘。
舞台人としての成長が感じられた。
「この二人、絶対うまくいかないよね」と最初からわかる結婚を
ビリーとジュリーがしたとするなら、
堅実の上にも堅実な結婚をしたのが
ジュリーの親友キャリー(はいだしょうこ)とスノウ(坂元健児)。
この二組のカップルの対比に沿って物語りは進む。
宝塚からNHKのうたのおねえさんを経て初ミュージカルとなるはいだは、
天然のかわいらしさが役とうまくマッチして好演。
坂元は豊かな声量と、笑いの間を心得たセリフまわしでいつもながら安定感抜群。
ジガーが川崎麻世だということは、パンフレットを見るまでわからなかったくらい。
大胆なメイク、こなれた声、役になりきる術を心得たベテランの味。
きっと、どんな役でも魅力的にこなせる人だろう。
舞台には、こういう役者が欠かせない。
それは、女主人マリンをやった風花舞にもいえること。
安心して見ていられる。歌の場面が少なかったのが残念至極だ。
ジュリーの従姉で世話好きなネッティには安奈淳。
役作りはさすがだが、
本人もこぼしていたとおり、高音はキーが合わずつらそうだった。
全体として悪くはない、しかし心に残るほどの名舞台までにはなっていない。
原因のひとつに「終わり方の唐突さ」がある。
これに関しては、
少し調べたいことがあるので、後日改めて書く。
二つ目の原因は、劇場の狭さ。
「回転木馬」に欠かせないバレエシーンについては、
まずもって銀河劇場の舞台が狭すぎる。
冒頭のバーレスクの見世物にしても、
男たちの踊りにしても、
手足が縮こまって奔放さやダイナミックさがシャットアウトされてしまう。
そこは非常に残念で、
そのせいか、
バレエシーンの幻想性が薄れ、
演技シーンとのつながりが希薄でとってつけたようになってしまった。
特に一番の見せ場であるルイーズとカーニバルボーイとのデュエットを
ビリーが一日だけ現世に戻って見守るシーンでは、
踊る二人と見守るビリーとが重なり合ってしまって、
「見守る」というより
娘がオトコにたぶらかされて抱き合ってるところをあそこまで間近で見ていたら
ふつう割って入っても邪魔するだろう、とさえ思えてしまう。
丁寧に作られているわりに感激度が少ないのは、
こうした点で「危ない!」とか「どうしたんだろう?」など
現実に引き戻される瞬間が多いからではないだろうか。
かなり損をしていると感じた。
キャストにしても、
1995年に帝国劇場でやったメンバーと比べると、
小粒感は否めないところ。
ジュリー:涼風真世、鈴木ほのか
ビリー:石川禅、宮川浩、
キャリー:吉岡小鼓音、佐渡寧子
スノウ:林アキラ、岸田智史
ジガー:市村正親、早川正
マリン:清水菜穂子、荒川洸子
ネッティ:大空眞弓、夏樹陽子
逆に言えば、14年前からずっと主役張ってる方々がスゴイのだけれど。
石川禅がこの舞台を「ターニングポイント」と言っているように、
浦井にとってもこれから先大きく羽ばたくきっかけになれば、素敵だ。
バレエキャストにしても、
95年は
下村由理恵、宮内真理子、渡部美咲、森田健太郎、李波といった
当時の日本バレエ界の現役スターの名前が並んでいる。
対して今回、
カーニバルボーイの西島千博(トリプルキャスト)は、
たしかにスターとしてのオーラはあるものの、
既に半分現役から足を洗った状態。
バレエ以外の分野での活躍が目立ってからの参加。
今回は(コーラスながら)歌も歌っている。
ルイーズ役の玉城晴香は体の使い方にコンテンポラリーの匂いがする。
フリーでの活動を選んでいるあたり、
これからどんな分野で力を発揮するか、興味をそそる。
95年とは、バレエシーンに対する考え方が違う、ということだろうか。
私は95年は未見なのだが、
有名どころを持ってきても、演技をしたことのない人では
思うような劇にならなかったのかもしれない。
そうだとしても。
やはりバレエを入れるのならば、もっと大きな劇場で。
これは絶対条件だと思う。

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