ヤマトタケルノミコトという人物は、
かなり有名です。
天皇の命によって日本中の豪族を平定するべく、
西に東に戦いを進め、
あるときは、女装して敵地に乗り込み、
火に囲まれて危ういところは草薙の剣の力で切り抜け、
がんがん勝ち進むも、
功績を上げれば上げるほど、
「もっと戦って来い」とまた遠征に向かわされる。
そこのところが、
頼朝の命で戦い続けた義経にオーバーラップしたりもして、
悲劇の英雄というイメージが定着しています。
最後は白鳥になって飛んでいく、というところにも悲哀が感じられ、
ドラマチックに語り継がれている人です。
ただね。
古事記を読むと、ちょっとイメージ、変わります。
ヤマトタケルのお父さんは、景行天皇。
たくさんの奥さんと、たくさんの子どもがいたんですが、
ヤマトタケルこと小碓命(おうすのみこと)には、
大碓命(おおうすのみこと)という同腹のお兄さんがありました。
このお兄さん、ちょっとフラチ。
お父さんの景行天皇から
「大根王の娘二人はきれいだっていうから、連れて来い」と言われ、
行くには行ったが、なんと、この二人と自ら関係を持ってしまいます。
そして、他の女をこの姉妹に仕立てて父親のところへ差し向けるのです。
お父さんもさるもの、
「ややっ、こいつら、違う!」とピンときて、
召し上げるも夜伽には指名しなかったんですって。
そんなこともあって、
お父さん、大碓命に不信感を持ち始めます。
「朝食くらい、毎朝家族全員で。それがキズナってもんでしょ」
というのに通じるんでしょうか、
朝廷では、毎朝、ともに食事をとることで、天皇への二心なきを示していました。
そこに、大碓が来ない!
天皇、ますます不審に思い、
「お前の兄は、何で来ないんだ? お前からきちんとさとして、来させなさい」
と、弟の小碓(=ヤマトタケル)に申し付けるのでした。
でも、5日経っても、大碓命は朝食会に現れない。
「何でお前の兄はまだ来ない? ちゃんと言ったのか?」
すると、小碓は「もう言ってありますから」と答えるから、
天皇はさらに、「どういうふうに言ったんだ?」とたずねました。
すると、小碓は顔色も変えずに答えます。
「明け方、兄貴が便所に行ったんで、出てくるのを待ってふんづかんで、
手足をへし折って、ムシロに巻いて投げ捨てました」
これを聞いて天皇、わが子の荒々しい気質に震撼。
そして、
「西のほうに、クマソの手ごわい相手が二人いて、私に恭順しない。
行って殺してこい」と命じるのでした。
小碓、まだ16歳くらい。
紅顔の美少年、というところでしょうか。
クマソたちが宴会を開くのをじっと待って、
始まると女装して潜入します。
時代劇の、よくあるパターンですよ。
「お? お前、新顔か? まあよい、可愛いのう。近う寄れ」
飲んでへべれけ、前後不覚のクマソ兄の襟をとり、
小碓、隠し持っていた剣を、胸からグサリと一刺し。
「キャー!」
宴席の者たちは浮き足立ちます。
クマソ弟もその光景に「うわっ」とたじろぎ、逃げようとしますが、
小碓、
クマソ弟に部屋の階段のところで追いついて背中をつかみ、
剣を尻よりブスリと刺し通します。
クマソ弟、尻から剣を刺されたまま、小碓に一言。
「こんなに強い者が自分たちのほかにいるとは知らなかった」
実は、ヤマトタケルノミコトという名は、このとき
クマソタケル(熊襲の強い者の意)がその「タケル」という名を
小碓命に贈ったところからきます。
(小碓命にはヤマトオグナノミコトという別名もありました)
串刺しになりながら、敵ながらあっぱれ!と名前を贈ろうという勇者を前に、
ヤマトタケル、ありがとうでも何でもありません。
話は済んだか、とばかりに剣でバッサリ切り倒します。
熟した瓜を振り断つがごとき、冷徹なわざ。
そうですね、必殺仕事人かゴルゴ13かってところでしょうか。
ニコリともせずに人を殺す、無口な男。
クールでニヒル、顔は色白の切れ長の、きっといい男だったんでしょう。
女装して似合うような人ですからね。
ヤマトタケルは他にも、
けっこう汚い手を使って人を殺します。
イズモタケル(出雲の強い人)と、まず仲良くなって油断させる。
一緒に川で泳いだりして、先に岸に上がる。
「ねえ、刀を交換しようよ」と、まだ泳いでいる遠くの男に笑顔で提案。
イズモタケル、「いいよ、友情の印ね」みたいな。
実は、ヤマトタケルは自分の刀として木刀を持ってきている。
いわゆるタケミツを、イズモタケルの刀と交換しちゃうわけです。
なーんにも知らずに川から上がったイズモタケルに、
ヤマト、いきなり「いざ、立合いを!」
「よし!」
…っていったって、刀、抜けませんから~。木刀ですからぁ~!
「ぬ、抜けない!」
あせるイズモを見て、ヤマト、フッと笑ったかどうだか、
交換した真剣を抜いて、一太刀でイズモを打ち倒してしまいました。
そのとき詠んだ歌。
「イズモの刀にはアオカズラがたくさん巻いてあって立派だけれど、
中身がなくて、かわいそうに」
ひぇ~、こわ。。。。
そんなこんなで九州から出雲まで西を平定して帰ってきたヤマトタケルに、
父親である景行天皇は、
「じゃ、次は東に行ってくれない?」と頼むのでした。
このつづきは、また明日。
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