東京駅直結の東京・大丸店の10階「大丸ミュージアム」で今やっている
「20世紀の巨匠たち」。
ロバート・キャパ、ユージン・スミスなど「巨匠」といわれる写真家の作品が、
120点ほど見られる写真展です。
他にマン・レイ、エルンスト・ハース、ヘルムート・ニュートン、ルイス・ハインなど
全部で14名。
私がもっとも感銘を受けたのは、ユージン・スミスでした。
彼はアメリカ軍の従軍カメラマンとして、沖縄戦を撮っています。
やられる側としては、
火炎放射器で焼かれる大地の写真を見ながら、
この先に人がいたのかいないのか、とても気になりました。
彼は、どんな気持ちでこの写真を撮っていたのでしょうか。
煙で洞窟からいぶりだされた女性と子どもを写した写真は、
その二人が「敵」ではなく「被害者」であることを雄弁に語っています。
ユージン・スミスの写真に写る人物は、
みな感情を持っています。
その感情を伝えてくれるスミスの写真がすごいと思いました。
スペインで撮った写真で、
今にも天に召されそうな老人のベッドを囲むように、
黒いベールを頭にかぶった女たちの心配そうな表情がくっきり浮かぶ作品は、
まるでルネッサンス時代の絵画のようです。
演出したとは思えないけど、
偶然とも思えない。
この絶妙なアングルが、彼の写真を他の人と少し違ったものにしていました。
「今そこにある事実」を臨場感あふれるタッチで残してくれたのは、
ロバート・キャパ。
特に、ナチスから解放されたパリにあふれかえる群衆や、
同じくシャルトルの通りを歩く人々の写真が印象的でした。
ドイツ人との間に生れた赤ん坊を抱いた女性は丸坊主にされ、
彼女をとりまく大勢の人々の、意地悪く笑っている目、目、目。
老人も、子どもも、男も女も。
泣きもせず、口を真一文字に結んでしっかり子どもを抱く丸坊主の女性が、
世間から裏切り女として断罪されているのにもかかわらず、
とてもりりしく見えました。
不思議です。
好きじゃないけど、スゴイと思ったのはヘルムート・ニュートン。
ほとんど変態です。
「オフィスラブ、パリ」なんて、
大きな机に女性を押し倒している“ジェントルマン”を
のぞき穴から見ているように写真の周りを加工してたりします。
「マネキン」という作品は、
服を着ていないマネキン人形みたいな女性を、ハウス・マヌカンが抱いてキスしてる。
スラリとした脚の女性がかがんでお尻を出して、
それをこれまたスラリとした美女が棒で叩こうとしているところ、とか。
隠微っていうか、
人工花っていうか、
そこに「現実」は一つもありません。
モデルを使って、彼の妄想をカタチにしています。
エルンスト・ハースはカラー写真で自然をとりまくります。
赤く噴出する溶岩、崩れ落ちる波、雨に濡れた落ち葉。
こういうの、ほっとします。
写真ってひと口にいっても、いろいろあるんだな、と改めて思った。
フィクションあり、ノンフィクションあり、
事実に見せかけて演出したものあり、
人を素材の一つとして配置したものあり・・・。
事実を通して人の心理に迫ったものあり。
見学している若い男性が、
写真の構図をエンピツで書きとめていました。
写真の勉強をしている人でしょうか。
その人は、
きっと私とまったく違う視点で、
これら巨匠の作品と向き合っているはずです。
未来の「巨匠」の、第一歩になりますように。
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