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成井豊からの説教@「キャラメル・ばらーど」


キャラメル・ばらーど
劇作家・演出家の成井豊が主宰する劇団「キャラメルボックス」では、
入団2年目までの新人にのべ8日間の「新人練習」を義務付けている。
3年以上の役者でも、参加するよう指名される場合もある。
そのクライマックスは、最終段階で行うエチュード「クラウン」。
クラウンとは、道化の意味である。
3分間、ただただ周囲を「笑わせる」だけに費やさせる3分間。
容赦のないダメ出しが繰り返され、
ネタもつき、頭も廻らなくなり、絶望と落胆と無我夢中の過程を経て、
もっと原初的な、もっと自分をさらけ出した「感情解放」の境地へと、
新人を到達させるエチュードだ。
そのクラウンをやるにあたっての心構えを、
成井は上のように話している。
「君たちは自ら主体的に役者になろうと決断した。
 自ら主体的にオーディションを受けた。
 ここまでは主体的にやってきたのに、
 新人だからクラウンをやらされている、と受け身にならないでください。
 主体的な存在、それが役者です。
 プロの役者になってください」

             (神山典士・著「キャラメル・ばらーど」より)
このくだりに出会ったとき、
私は頭をカチ割られるような衝撃を受けた。
この「役者」を「ものかき」に読み換えれば、
ライターへの訓示にもなる、貴重なアドバイスである。
「君は自ら主体的にものかきになろうと決断した。
 自ら主体的に学校へも行った。講座も受けた。賞に応募した。仕事もとった。
 ここまでは主体的にやってきたのに、
 新人だから意に染まない仕事をやらされている、と
 受け身にならないでください。
 主体的な存在、それがものかきです。
 プロのものかきになってください」
主体的な存在。
最近、仕事のやり方をおしえることが多くなった。
ちょうど自分がライターとして「ひと皮むけたい」と思っているタイミングで
新しい仕事にチャレンジしようとする人々と向き合う経験は、
改めて
「フリーライター」とは何かを考えるきっかけになっている。
私は何を求めて「フリーライター」になったのか。
「フリーライター」として生きるためには、いかにすればよいか。
一つひとつの仕事を進めていく上での心がけは?
クライアント・取材対象との関係は?
自分の能力を向上させていくための努力は?
自分の最終目標は?
つまり私は「なぜ、なにを、いかに、」書こうとしているのか。
そんなことを日々考えていたときに、いやそんなときだからこそ、
深く心に残った成井の言葉。
主体的な存在であり続けること。
その、覚悟。
すべての感情を解放すること。
自分の奥底をのぞき込むこと。
折りしも「コントを書く」という命題を抱えていたので、
「笑い」と「自分」について、深く考えることができた。
自分が好きな「笑い」とは。
つまり、自分が主体的に書ける「笑い」とは?
成井は、クラウンのダメ出しに、こんな言葉も浴びせている。
「…(前略)なんで面白くない自分を許してるの?
 あんなダジャレ1つで君は面白いんだ。
 そんな感性なんだ。
 そんなことが面白いと思っているなら人前に出るのをやめなさいよ。
 サラリーマンとかフリーターになりなさい。
 親しい友達ならその程度でも笑ってくれるよ。
 でも僕らはお金を払って観に来てくださるお客さんを相手にしている
 プロだからね」

「君は途中でこんなことではダメだと気付かないの?
 気付いたならなんで根本的に変えないの?
 延々続けていても笑いがとれないとわかっているのに
 何で同じことを続けるの?
 気付いたら何らかの手を打ちなよ。
 君はつまらない自分を許しているとしか思えないよ。
 気分悪いよ。
 致命的に傷ついたら同じことを繰り返せないはずだよ。
 同じことをやってしまうということは、傷ついてないんでしょうね。
 君は本当にお客さんを笑わせようと思っていないよね。
 ダメで仕方ないと思っているよ。
 だから傷つかないんだよ。
 甘いよ。
 そういう現状肯定の人は成長しないよ。…(後略)」

              (神山典士・著「キャラメル・ばらーど」より)
 
ダメで仕方ないと思っている。
つまらない自分を許している。
本当にお客さんを満足させようと思っていない。
甘い。
お金をもらって読んでもらうプロのものかきとして、
そのスタンスは、甘い。
心のどこかで、
「仕事はお金のため、お客さんに合わせて書くけど、
 やりたいものは自分の好きなように書く」
みたいな住み分けをしていなかったか。
「本当に書きたい」ものを「仕事」のレベルまで持っていく努力を、
私は必死でやってきたか。
とにかくグサグサと突き刺さった。
成井さん、ありがとう。
神山さん、ありがとう。
私の新人練習、まだまだ続きます。
*「キャラメル・ばらーど」は、劇団「キャラメルボックス」の草創から20年を、
成井豊の生い立ちから始まって加藤昌史との出会い、
劇団のポリシーと倍々ゲームで動員数を伸ばした秘密、
そして劇団として20年以上第一線で活動し続けている根源的なパワーに
演劇好きな神山がどこまでも密着して描ききった名著。
「キャラメルボックス」が好きな人は、必読です。

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