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「ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ」

不思議な空間である。
500人入るかどうかという、小さなライブ会場。
席はパイプ椅子だ。
そこに現われたオカマちゃん、ヘドウィグ。
パイプ椅子をぎっしり埋めた若い女性たちが、
1曲目から総立ちになる。
「アタシが世界の真ん中に立たなくて、誰が立つのよ!!」と叫び、
英語で愛を歌うヘドウィグは、山本耕史。
多少きわどい下ネタを交えながら、
常に観客に問いかけていくヘドウィグ。
常に観客を挑発し続ける、ヘドウィグ。
たきつけられ、使命感にかられて、空気を作ってゆく観客たち。
これは、山本耕史演ずる「ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ」というお芝居?
それとも、ヘドウィグのロックコンサート?
観客席にいる私たちも共犯者となって、この「ライブ」は結界している。
全編、歌は英語で歌われる。
内容の理解が進むように、バックのスクリーンが時にアニメを、時に歌詞を映し出す。
私は映画を見たことがあり、話の筋はわかっていて見ているから、
歌詞が聞き取れなくても、理解できなくても、大丈夫。
初めての人は、どうなのかな?
話が進むにつれ、「英語の部分がわからない」という違和感はどうでもよくなってくる。
歌は、ただ「ロック」として空気を響かせる。
山本の、日本語で行われる「お芝居」の部分が秀逸で、
だんだんヘドウィグの悲しみがこちら側に乗り移ってくる。
「トミー・ノーシス。彼こそ、アタシの片われなんだ・・・」
そう気づいた時の、至福、そして、絶望・・・。
捨てられても、無視されても、逃げられても、
それでもなお「片われ」を求め続ける、切ないまなざし。
淡い期待・・・。
深い絶望、そして、それでも生きていく証。それが、音楽。
もう一つの安らぎ、イツァーク。
無口で、反抗的で、でもあふれるほどの愛でヘドウィグを包むイツァークを、
ソムン・タクが最高のパフォーマンスで体現。
しっかりとした日本語のセリフ。
最高の歌声。すべてを圧倒する力強さ。確かさ。
彼女の声が、この舞台を大きく支えている。
彼女なしの「ヘドウィグ」など、考えられないほど、素晴らしい出来だ。
ただ愛を求め、全身を投げ出すようにロックを叫ぶヘドウィグ。
人を愛する自由を求めることが、
そんな個人的な、根源的な、感情的な、本能的な欲望が、
実はもっともアナーキーで、社会を揺るがすエネルギーなのだということが、
カラダでわかってくる。
ベルリンの「壁」のことや、クリスタル・ナハトのこと、シャワー室での虐殺など、
ドイツやユダヤに関するセリフがどれくらい観客に通じたかは不明。
ものすごいブラックユーモアの連続で、
非常に知的な脚本でもあるのだが。
そう、ヘドウィグ自身が、とても知的であるということを、
「オカマ」な設定が覆い隠しているのである。
ある意味、すべてが策略?
これはもしかしたら、ものすごく政治的なメッセージ性のある集会なのかも。
「アタシが世界の真ん中に立たなくて、誰が立つのよ!!」
女になったドイツ人の男と、男になったユダヤの女とが、
人間の、本当の自由を求めて、歌うのである。
それは、観客に伝播して、
みんな、ヘドウィグに託してともに歌うのだ。
右手を、高く挙げて。
観客一人一人の魂の自由を要求する。
それぞれが封印している何かを解き放つ。
愛を、そして、自由を!
演出は、「ファントム!」も手掛けた鈴木勝秀。
山本の気迫と人物造詣の深さ、そして
ソムン・タクのプロの歌唱力に支えられて、芝居を成功させている。
どんなに激しいパフォーマンスの後でも、
何事もなかったように伸びのある声で歌を披露した山本に拍手。
東京、新宿FACEで5月6日まで。
その後、全国をまわり、
ファイナルツアーが、新宿厚生年金ホールでも行われる。
大きいところもいいだろうが、
小さい小屋での一体感を、ぜひ味わってもらいたい。
*予習したい人は、英語の歌詞の日本語訳が、サイトに出ています。
 でも、読まずに感じるっていうのもいいと思った。
 映画を見るのはオススメ。
 私は、映画のイメージを壊されたくないと思っていたけど、
 そんなことはありませんでした。
 (もちろん、同じではないけど、互いにシンクロしていて、心地よかった)

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