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「オセロー」

シェイクスピアの四大悲劇は「リア王」「ハムレット」「マクベス」そして
この「オセロー」である。
え?
「ロミオとジュリエット」とか、入ってないの?と思う人、多いかもしれない。
そうなんです。
ロミジュリなんて、悲劇のうちに入りません!っていうくらい、
この4つは悲惨のきわみです。
リア王、ハムレット、マクベスって、主要な登場人物はバッタバッタと死んでしまう。
それに比べると、このオセロー、死ぬ人は少ない方。
でも、
「なんでこんなことで死ななきゃならないの?」のボルテージはダントツです。
ただただダンナさまが大好きで、ダンナさまのことだけ思っている貞淑な新妻が、
「あんたの部下と浮気してますよ」と腹心に吹き込まれただけで
その愛する夫に殺されちゃうんですから。
嫉妬に、それもウソの浮気話への嫉妬に狂ったオトコのバカなお話。
そうくくってしまうと、身もフタもない。
だからこそ、
この話ほど役者の力量が試される劇もそうありません。
現在、彩の国さいたま劇場で上演されている蜷川幸雄演出の「オセロー」は、
そのタイトルロールに吉田鋼太郎、妻デスデモーナに蒼井優、
オセローにあることないこと吹き込んで破滅させるイアーゴは高橋洋という布陣です。
蜷川演劇を見たことのある人なら、吉田、高橋の実力はもうご存知だと思います。
二人とも常に重要な役を演じて光を放ってきました。
吉田は「タイタス・アンドロニカス」のタイトルロールと「グリークス」のメネラウス、
高橋は「ハムレット」のホレイショーと「あわれ彼女は娼婦」のバーゲットが
私には忘れがたい舞台でした。
今回の配役について、演出の蜷川幸雄は
「(演劇畑で育った)吉田と高橋がきちんと演じることで、ある種の商業主義と別個に
本当の意味での魅力的な俳優の演劇的な価値を高めることができる」と
その抱負を語っています。
そしてその狙いは、大いに成功したのではないでしょうか。
アフリカ出身の黒人でありながら、武官としての力量と高潔な人となりで
ヴェニスのお偉方たちからも一目置かれているオセロー。
「オセローは美しい黒人でなくてはならない」と思ったという吉田は
この役のために肌を浅黒く焼き、頭を剃って臨んでいます。
白いガウンと玉をつらねた首飾りはその肌に映え、オセロは本当に雄雄しい。
デスデモーナは「彼の苦難の人生に同情し」それが愛に変わったといいますが、
この黒光りしてエネルギッシュ、包容力たっぷりその上ハンサムなオセローの「見た目」に
白人貴族の箱入り娘・デスデモーナは一発でまいっちゃった、という感じがよく出ています。
父親を欺いて黒人と結婚しちゃうその意味の大きさもわからず、
「ヴェニスに一人残っても、みんなヘンな目で見るし、あの人とも離れたくないから」と、
戦争しに行くっていうのにいっしょに船出しちゃったり、と
デスデモーナは典型的な「幼な妻」。
「自分は悪いことしてない。その自信があるから、何でもやれる」といった
人の目なんか気にしない行動が、周りにどう影響を及ぼすかまでゼンゼン考えられません。
対してオセロー。
善悪の判断、状況の正確な判断ができるからこそ武官として尊敬されているのに。
そんなオセローがどうして「偽りの諫言」なんかに惑わされるのか。
そこが、一番のキモ。
自分が黒人だから、コンプレックスがあるから、とか、
まあいろいろ言われているけれど、
私はデスデモーナの父親に言われたこの一言に尽きるのではないかと思うのです。
「こいつ(デスデモーナ)は父親をあざむいたのだ。
 貴様(オセロー)のこともあざむくだろう」
自分の言葉を容易に信じようとしないオセローに、イアーゴはこの言葉を繰り返し吹き込みます。
そして、オセローは自分の前でにこやかに愛を囁くデスデモーナを
信じられなくなっていくのです。
つまり「オセロー」とは、
「目の前の人は、本当の気持ちを自分に言っているか?」
という命題を深く追究した悲劇なのです。
ずーっと裏表なく心のうちをそのまま話しているデスデモーナはオセローに信じてもらえない。
最初から深慮遠謀でひとつとして本心を表に出していないイアーゴは、
「正直者のイアーゴ」とみんなから呼ばれ、その言はフリーパスで信用される。
「うそかまことか」
人間はそれをどこで、どう判断するのか。できるのか?
シェイクスピアはそれを観客につきつけています。
どんなに虐げられても人を信じようとしたデスデモーナ。
「本心などさらしたら、ズタズタにされる」「だまされる方が愚かなのだ」と
誰一人信じようとしないイアーゴ。
自分を信じ、人を信じることで地位を得てきたのに、
自分の価値も、人の心も信じることができなくなったオセロー。
その中で、もっとも地に足をつけて生きているのが
イアーゴの妻でデスデモーナの侍女であるエミリアではないでしょうか。
「女が浮気をするとしたら、それは男が悪いのよ」
「首飾りのひとつくらいじゃ身を売らないけど、世界をくれると言われれば、話は違う」
と言い放つエミリア(馬渕英俚可)。
「ダンナさまは嫉妬深くない」と言い張る世間知らずなデスデモーナに
「あれで?」とあきれながらも彼女を慰めるエミリアには、
現在でも通用する女性の言い分がたくさん詰まっていて、
オトコの論理で流れていく「オセロー」の時代を越えた視点にハッとさせられます。
エミリアを演じた馬渕英俚可の成長ぶりには、目を見張りました。
セリフにも表情にも緩急がついて奥行きがあり、
人物の作りこみに自分なりの思想が感じられました。これからが楽しみです。
舞台経験の少ない蒼井優には、
ところどころ演劇的な表現にまだ心がついていけない部分が見受けられました。
クライマックスに近づくにつれ存在感を増したものの、
発声など基礎的な力の積み重ねが必要。
またセリフの言い直しも多く、少し気にかかりました。
イアーゴ役の高橋洋は、4時間近いこの大作を最初から最後までひっぱります。
声を潜め、叫び、人が好さそうに微笑み、かと思えば冷たい目で見下す。
人の心の表と裏を見事に表現し分け、口先三寸で人を陥れる悪党を演じながら、
計画的で巧妙な人心のコントロールは鮮やか。
「こうやってアタマのいい人は、バカな人を使ってのし上がっていくのねー」と妙に感心したり、
「人生、自分のやり方次第でどっちにでも動く。どんな逆境でも頭を使って抜け出せる」という
ポジティブな考え方には、なるほどとさえ思ってしまいます。
上手の手から水がこぼれるような結末に、「チッ」と舌打ちが出そうになりました。
13日(土)夜に観劇。
19時開演で終わればすでに23時をまわっていた!
まさか4時間もたっているとは思えない面白さ。
でも、千葉県の我が家に帰れたのは、1時過ぎでした。(終電。間にあってよかったー)
配られたチラシの中に埼京線の時刻表が入っているのには、それだけの理由があったわけで。
助かりました。
これから行く方、特に夜行く方は、帰宅の便を調べておいた方がいいですよ。
また、この日はテレビカメラも入っていました。

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