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扉座「新浄瑠璃 朝右衛門」@紀伊國屋ホール

猿之助のスーパー歌舞伎の台本を書いた横内謙介が
歌舞伎義太夫の竹本葵太夫とタッグを組み
扉座で新浄瑠璃に挑んだのは
手塚治虫原作「どろろ」を舞台化した「新浄瑠璃 百鬼丸」が最初。
その2人が
今度は劇画「首斬り朝」(小池一夫原作・小島剛夕作画)をもとに作った
「新浄瑠璃 朝右衛門」が、
東京・新宿の紀伊國屋ホールで上演されている。
「何の恨みもないけれど、家業として500人以上の咎人を殺してきた朝右衛門」が縦糸、
「何の落ち度もないのに悪党に人生を台無しにされ、悪党を恨み続ける女おのぶ」が横糸。
「その手で人の命を奪う」ことの手触りと罪悪感、
人を恨み続ける人生のエネルギーと虚しさを描きつつ、
「死罪という処罰の是非」「冤罪で殺された人はどうするのか」などを盛り込み
「汚れ役は誰かにさせて、口先だけで死刑必要論を唱える人々」をも静かに糾弾する
奥深い話に仕上がっている。
この前、世田谷パブリックシアターで見た「現代能楽集」の「愛の太鼓」でも
刑務官が絞首刑に立会い、ボタンを押す、という行為について描いていた。
最近は、裁判員裁判で死刑の判決が出たり、と
「死刑」について考えることが多くなってきたので、タイムリーと言えよう。
また
「普段は漫画をあまり読まない」という葵太夫が「時代考証の緻密さに感服した」
という原作を題材にした今回の舞台、
江戸時代の牢や処刑のあり方などの説明が本当にスムーズで
その台本作りには舌を巻く。
「浄瑠璃」は手法としてだけでなく、最後の最後に「めぐる因果の糸車」的なオチもあって、
歌舞伎的な要素があちこちに取り入れられている。
演技陣では
岡森諦が、500の魂を背負って生きる朝右衛門を体現して超クール。
三の線が入ったキャラを演じることが多い岡森だが、
なかなか見られない静かな二枚目役は
クールななかにも慈しみ深さが滲み出て、やっぱり温かい岡森ワールドなのである。
大悪党の新九郎を演じた上原健太は、大見得が迫力満点。
「悪党なのに人気」という民衆の浮ついた気持ちを実感してしまった!
おのぶは若いときが高橋麻理、老婆になってからが中原三千代。
この物語、実はおのぶこそが真の主人公なので、
両人とも初めて登場したときにもっとオーラがほしい。
若い女性としては、
冤罪で弟を殺されたお俊(栗原奈美)登場のインパクトが強く、
じわじわと存在感を増す高橋は、栗原に最初の印象をかき消された感がある。
中原も、
「めぐる因果」の結果から考えると、あそこまで老婆になりきる必要があったかどうか。
汚らしい色気というか、老いさらばえても異様な艶っぽさを見せれば
単なる狂言回しのおばあさんだな、という勝手な思い込みを
登場時に観客にさせずに済んだかも。
テーマは重いけれど、笑いの要素もちゃんとあって、
休憩なしの二時間もあっという間。
ラストを飾る赤い提灯が美しく、温かい幕切れになっている。
扉座「新浄瑠璃 朝右衛門」は、紀伊國屋ホール(新宿東口の老舗のほう)で
12月5日(日)まで。当日券あり。
ぜひ。

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