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「ロマンス」で井上芳雄が学んだもの

WOWOWで、井上ひさし作「ロマンス」を放映していました。
テレビで観ても、感動します。
観客席から見えなかった俳優たちの表情の細やかな動きに改めて感心します。
段田さん、木場さん、生瀬さん、大竹さん、
円熟した役者っていうのは、本当に演技が滑らかです。
大竹しのぶの、大げさにがなりたてていたかと思うと
「なんてきれいな紙…」と原稿用紙のことをうっとりとした目で見る時の
無垢な声との落差よ!
もちろん、「タバコはいかが?」のところで瞬間演じる「かもめ」の一場面など、
鳥肌ものです。
生瀬さんも、
舞台ではトルストイ役とか、どちらかというとデフォルメされた場面の印象が強いけど、
じっくり見直すと、
穏やかなチェホフ役の、哀愁漂うセリフ回しにゾゾっと感じてしまいました。
でもやっぱりツボは
木場勝己と大竹しのぶの「夫婦で大笑いする哀しい場面」。
またまた涙ぐんでしまいました。
それに比べると、若い二人はちょっと力が入っていたかな。
特に松たか子は言葉をはっきりしっかり言おうという気持ちが前に出すぎていたように思う。
まあ、肩の力を抜いてもしっかりはっきり「聞こえる」、
それも陰影や深みを見せつつ…っていうのは、とっても難しいことなのでしょう。
さて、本題。
WOWOWでは、ただ舞台を録画中継するだけではなく、
関係者のインタビューを一緒に放映します。
今回は、出演者全員のインタビューがついていました。
その中で、井上くん、こんなことを言っていた。
「最初は、歌があるんだから歌のところだけでもちゃんとやって、自分の存在意義を出してやろう、
 と思っていたんですが、その歌の部分でも、
 僕にとっては勉強することばかりでした。
 もちろん、楽譜にある曲をきれいに歌うという訓練は、ずっとしてきていますが、
 段田さんや生瀬さん、どうして歌わなくちゃいけないんだ、とかいいながら歌うんですけど、
 でも、ああいうふうに素朴に歌った方がいいのかな、と思ったり、
 大竹さんなんか、まるでセリフをしゃべるように歌うでしょ、
 どうやったらあんなふうに歌えるのか、僕にはわからない…」
こういうカルチャーショックや、自分の歌を見つめなおす機会があったことが、
今回の「モーツァルト!」再々演の成長と成功につながっているのではないでしょうか。
私はこの「ロマンス」の井上くんを観て、彼のミュージカルを観てみたくなり
「モーツァルト!」を初めて観たわけで、
こういう若い人の成長の過程をリアルタイムで経験できるって
とても幸せなことだ、とつくづく思いました。
彼を「ロマンス」にキャスティングした人に、拍手!
あなたこそが、日本のミュージカルを一段進化させたといえるでしょう!
オマケ。
遅筆とは聞いていたけど、ほんとに井上ひさしって遅筆なんだ、と実感したのが
大竹しのぶのインタビュー。
台本が最後までできていない中で、とにかくできた順から稽古していく。
最終的にどうなるかわからないのに、役作りしなくてはならないのだから、
「ほんとに私たちよくやってるよね、と励ましあいながらやった」という言葉には重みがあります。
彼女は、最初の場面ではマイムだけのヒゲの警察官。
次がリュウマチ持ちのチョイ悪老婆。
「このおばあさんの役だけで終わっちゃったらどうしよう、とか思いながら稽古しました」って
聞いてるこっちも思わず笑ってしまいました。
「でも、いい本ができることを信じて待って、そしていい本ができてきたから」。
「ロマンス」。
本当に素晴らしい本です。
その本を、最高の役者たちが演じている。
ぜいたくな時間を、もう一度過ごさせてもらいました。

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