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「ファントム!」

このプロダクションには、看過できない欠如が3つある。
一つ目。
ミュージカルに対するリスペクトの欠如。
二つ目。
「オペラ座」に対するリスペクトの欠如。
三つ目。
広い意味での「オペラ座の怪人」ファンに対するリスペクトの欠如。
演出者:ミュージカル初挑戦
主演男優:同じく
主演女優:同じく
助演女優:同じく
ミュージカル初挑戦であっても、オペラ歌手で舞台経験があったり、
100歩譲って声楽家であったりするのならまだわかる。
しかし、大沢たかおも徳永えりも俳優。徳永に至っては、舞台も初めて。
ミュージカルを知らず、オペラを知らず、
そういう人々でどうやって
「オペラ座」の「ミュージカル」を作り上げようとしたのだろう?
これがオリジナルのミュージカルであれば、まだ何とかなる。
しかし、テキは「オペラ座」である。
常に世界のどこかで最高峰のキャストがロングランを続ける
アンドリュー=ロイド・ウェーバーの「オペラ座の怪人」があり、
そのもととなったケン・ヒル版があり、
この「ファントム!」版自身、日本でも宝塚での人気演目である。
必ず、比べられる運命にある。
そう、
「オペラ座の怪人」のファンは、自分の中に理想の物語を既に持っている。
かくいう私にも。
何より悲しかったのは、
カルロッタとクリスチーヌというパリのオペラ座のプリマドンナが
ちっともプリマの美声と声量を兼ね備えていなかったということ。
この2人の葛藤は、
「オペラ座の怪人」のサイド・ストーリーだ。
それは、芸術が抱える宿命。
どんな名優にも「旬」があり、いつか「伸び盛り」の若造に追い落とされる運命にある。
パリのオペラ座という、芸術の殿堂であり、象徴である建物を舞台に
「芸術とは何か」を謙虚に、真摯に描ききったからこそ、
アンドリューの「オペラ座の怪人」はオペラファンにも愛されるミュージカルなのである。
ケン・ヒル版も、ストーリーは小説に忠実、
かつ歌われる歌は本物のオペラの歌や有名なクラシックの曲を使っている。
その歌を歌いこなすための技量を、出演者はおのずと求められるのである。
ところが、
大西ユカリはオペラ歌手としての歌い方をまったく無視している。
話自体、カルロッタを単なる「成金の妻」扱いなので、それは演出なのかもしれない。
ファントムが「場末の酒場で聞くような声だ」と言い放つ場面では
そのとおり!と思わずうなずく。
天下のオペラ座の舞台の、それも中央になど、立てるはずもない。
そこが、
この演出の「わかってない」ところなのだと思う。
「オペラ座の怪人」にストーリーがいくつあってもいい。
でも、絶対に変わってはいけないこと、それは
往年の花形歌手カルロッタが金銀財宝ざっくざくといったゴージャスな声で、
堂々たるアリアを歌って観客をうならせた後、
新星クリスチーヌが、真珠をころがすような清らかな声でそれを上回る感動を与えるという構図。
カルロッタが上手ければ上手いほど、
クリスチーヌの素晴らしさが引き立つ。
そこが、この物語の白眉であり、その物語をオペラ座のような劇場で堪能することが
観客を夢の世界に引き込む入れ子の仕掛けなのに……。
大沢たかおはがんばっていた。
特に、ファントムがクリスチーヌの前で仮面をはずす段の演技には特筆すべきものがある。
仮面で表情を封印された中、声で、体で、ファントムをよく演じていた。
歌も、たっぷりした声量で主役としての存在感を保っていた。
しかし演技はさておき、
大沢たかおの「歌」が(相対的に)上手く聞こえること自体、
このステージはつくりがおかしい!
彼の演技力を買って主役に抜擢したのなら、
もっと脇を固めて彼を支えるべきだったのでは?
主役の2人がデュエットするのに、どちらがイニシアチブをとることもできず
音程を探り合う様は情けなさ過ぎる。
徳永えりは長いフェルマータに耐えられず、声が途切れてしまうし、
クライマックスは叫びすぎてセリフが聞き取れない。
すべての「オペラ座の怪人」ファンが、きっと落胆したことだろう。
あれは、クリスチーヌじゃない。
海外から「当たり」の作品を買ってきて、
有名人を使えば客がついてくる。
そんな時代はもう終わった。
日本人のミュージカルファンの目は肥えている。
…と、いいたいところだけれど、
この「ファントム!」実は完売・満員御礼。立ち見もぎっしりだ。
この布陣でペイできると踏んで、
二匹目のドジョウを狙う主催者がいないことを切に願う。
ここでの収益を
本物のミュージカルの支援にぜひまわしてもらいたい。

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