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  1. 舞台
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「女教師は二度抱かれた」

いい芝居には、必ずいい役者がいる。
その芝居の本質を体現できる役者がいなければ、どんな本も真価を発揮できない。
その意味で、「女教師は二度抱かれた」ははぜいたくな舞台だ。
奇才・松尾スズキが放つ変化球を、
怪優たちがバットの真芯にとらえて次々とホームランをかっ飛ばす。
まずは、大竹しのぶ。
三角巾にお仕着せのブルーグレーの作業着にゴム手袋といういでたちで数人が現われる冒頭。
性別だってわからないくらい匿名性の強い中から、
いきなり強い訛りで「野良での出来事」を話し出すと、そこに「パートのおばさん」が出現。
ほかの役者はぜ~んぶかすむ。
そうかと思うと、彼女が夢見るような目をして宙を見上げたとたん、
パートのおばさんの形相は消えて、彼女は瞬時に美しく教養深い若い女性に。
瞬間である。
のりうつってる。
大竹しのぶという女優は魔法の箱だ。
どんな人格を入れても、おさまらないということがない。
伸縮自在。
歌舞伎の「弁天小僧」の一節まで披露する。デフォルメの極地。それでいて、正統。
実力がなければタダのお笑いになるところを、思わずひきこまれて、拍手。
もう1人が、阿部サダヲ。
最近は、映画でもテレビでも引っ張りダコで、露出度もグンと上がったが、
彼の真価はきっとナマの舞台でなければ本当にはわからない。
芸達者である。
ホンモノの歌舞伎役者である市川染五郎を前に、歌舞伎の御曹司をこれでもか、とベタに演じる。
セリフが通る。間合いが抜群。体が切れる。
そして、オーラだ。
思いっきり笑わせてくれるが、思いっきりカッコイイ。惚れる。
オカマの役だが、男らしい。主役の器だ。
さすがの実力で重要な役回りを担うのが、浅野和之。
苦虫を噛んでいるような顔をしながら、やることなすこと可笑しい。
可笑しいのに、恐ろしい。
根っからのコメディ役者なんだな、この人。
「フラガール」に出ていた池津祥子、
「クライマーズ・ハイ」に出ている皆川猿時も脇を支える。
力のある人は、セリフの切れと重さが違う。剛速球が耳元をかすめ、空気を引き締める。
もちろん、笑いのツボをご存知だ。
その意味で、役者としてもものすごい人と実感したのが、
この話を書き、演出もした松尾スズキ。
存在感バツグン。
何なんだ、この才能は・・・。
彼の作品は「ユメ十夜」の第六夜や「クワイエットルームにようこそ」と映画は見ているけれど
舞台は初めて。
3時間をものともしない、心憎いまでの舞台転換とテンポのよさ。
現実ネタをポンポン入れ、アソビのシーン満載ながらも、筋はまったくぶれずに一直線。
そして、音楽。
音楽的センス抜群である。
曲はフクザツなコードを駆使しながらも、メロディは単純、リズムは明解。
観客の体にすっと入ってくるその馴染みのよさが、
この舞台の音楽性の高さと、求めるクォリティーの高さを示している。
みんなきれいにハモる。すごい。
「音楽劇」といってもユニゾンでがなるだけのものとか、
「ミュージカル」と銘打って、歌えない人気俳優を取り揃えたりする興行とかは、
「ただの演劇」でもこれだけの歌を歌ってることをその目で確かめてほしい。
大竹しのぶ、石の上にも三●年だ。
いきなり彼女が歌う「さ~がして~♪さ~がして~」のテーマソングがいい。
「寝取られ宗介」で歌った悪夢のような「ありがとう、さよなら」からウン十年、
彼女は上手くなったと本気で思った。
しかし、
秀逸だったのは、市川実和子と星野源が歌う「夜のボート」。
市川は、セリフの場面では多少見劣りする部分もあったが、
この歌を歌い始めた途端、
「だから彼女を使ったのね」と納得。
奥の深い、デカダンな歌い方をしていた。無垢な表情を持つ、オトナの女なのである。
星野はこの舞台の音楽をマネージメント。
生演奏で舞台を支えるSAKEROCKのピアノ担当・門司肇とともに、
最高のミュージックを造り上げた。
染五郎は、他の役者のエキセントリックさの影に隠れてあまり目立たない。
しかし「歌舞伎役者の御曹司」の気配を完全に消し、
人生に成功すればするほど心が苦しくなる、1人の男の迷いを演じきった染五郎に、
私は拍手を送りたい。
新進気鋭の演出家で今売り出し中という、松尾スズキの分身ともいえる主人公の、
いい加減であり、自分がなく、流されまくりで優柔不断人生のダメ男ぶり。
けれど実は純情で優しくて、みんなから好かれている、ステキな二面性。
これが最初から最後まで一貫しているからこそ、舞台は回る。
話がただのご都合主義にならず、
「女教師」はただのやっかいな悪夢にならず、
観客の心には、常に温かいものが流れる。
松尾は「初めて一緒に仕事をする染五郎さんの出来が成否を左右する」と思っていたというが、
彼のもくろみは、観客をいい意味で裏切って成功しているのではないだろうか。
風俗嬢に抱かれながら、遠い目をする染五郎の表情には、
「失くしてしまったもの」への哀愁が溢れていた。
「女教師は二度抱かれた」は、東京・渋谷のシアターコクーンで8月27日まで。
正味3時間、休憩入れて3時間半の大長編ですし、
チケットもよく売れているようで、立ち見も盛況ですが、
時間のある方、ぜひ観劇をおすすめします。
自分には小劇場チックな奇抜さは合わないんじゃないか?と二の足を踏んでいるアナタ、
大丈夫。絶対ついていけます。

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