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「ア・フュー・グッドメン」


ア・フュー・グッドメン#コレクターズ・エディション
新弟子が死んだ。
兄弟子がリンチをしたらしい。
親方の命令だったという。
親方は命令していないという。
死んだ弟子は、部屋をやめたいと言っていた。
体もできていなくて、稽古についていけなかったという。
何度も部屋を脱走、
相撲をやめたいと訴えていた。
「ア・フュー・グッドメン」は、
イラク戦争の囚人収容で有名になったグアンタナモ基地で起きた、
海兵隊員のリンチ殺人事件をめぐる軍内裁判を描いた作品。
トム・クルーズは、被告のチーフ弁護人として
「彼らは命令によってリンチを決行し、命令したのは上官である」ことを証明しようとする。
今見ると、時津風部屋で起きた事件がオーバーラップして迫ってくる。
親方(上官)の命令は絶対だから、やったのか。
それなら、親方(上官)がやめろと言えばリンチは起きなかったはず。
何で事件は起きたのか。
本当に、親方(上官)はやめろと言ったのか?
事件当初から相撲協会の動きが鈍かったことも、
軍の人間が軍の人間を裁く、という難しさと非常に似通っている。
法務部門の弁護士とはいえ、
トム・クルーズも海軍の一員である。
一介の軍人が、中佐だの大佐だのという軍の要人に対し、
一体どこまで迫れるというのだろう。
検事も判事も弁護士も、被告も被害者も証人もすべて軍の人間。
そんな中でトム・クルーズは、
軍というヒエラルキーの中での出世の道を犠牲にせずに、
真実に迫れるのだろうか?
不文律のように営々と続いてきた「しごき(「コードR」と呼ばれる制裁の数々)」なくして、
強い角界(軍)は維持できるのだろうか。
一つひとつの部屋(小隊)のやり方にいちいち口を出して
全体の士気に影響はないのだろうか?
大佐役のジャック・ニコルソンが言う。
「You cannnot handle the truth.」
「お前に真実なんかわかるはずがない」と訳されていた。
今回の真実は、お前の手にあまる、的なニュアンスだろうけど、
「truth」は「handle」するもんなんだ、と愕然とする。
「真実」は、誰の手にかかるかによって、どうにでもなるものなのか・・・。
一瞬の行動の躊躇が隊全体の命運を左右する戦争にあって、
命令への服従系統の死守は絶対である。
しかし、上官の命令ならどんなに間違っていると思っても無条件に従うことは、
人間として正しいことなのだろうか。
ジャック・ニコルソンの
「お前たちがのうのうと暮らしていられるのは、俺たちが体張ってるおかげだ! 
 俺たちのやり方に四の五の言わず、黙って感謝しろ!」
という叫びには、平時の軍人のフラストレーションが詰まっている。
「戦わない部門代表」の軍人トム・クルーズが、
「戦う部門」の軍人である証人たちの論理を、
冷静緻密な手口で袋小路に追い込むプロセスが小気味いい。
上述の二人のほかにも、デミ・ムーア、ケビン・ベーコンなどオールスターキャスト。
誇り高い軍人たちの、勇敢かつ真摯な態度を描きながらも、
軍隊そのものの持つ矛盾を鋭く斬った名作である。
「ア・フュー・グッドメン」という題名も大好き。
渦中に一人でも二人でも良心に従って行動する人がいたら、という願いと
自分の心の中で大部分を占める「波風を立てまい」とする気持ちに立ち向かう
「どこかで消えずに残り、自分を支える良心のいく粒か」との葛藤を表して、
惚れ惚れするタイトルである。
どの人間の中にも「グッドメン」はいる。
そう信じたい作り手の心が伝わってくる。

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