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「神の子どもたちはみな踊る」@よみうり大手町ホール

世界中に熱狂的な愛読者を持つ小説家・村上春樹の作品を舞台化した「神の子どもたちはみな踊る after the quake」。原作は同名の短編集(2000年発行)で、6編それぞれ阪神・淡路大震災の惨状をテレビで観た人間が、喪失感を抱えながら人生と向き合い生き直していく。災害で日常の生活が壊滅するのを目の当たりにすれば、直接の被害者でなくても心が痛む。大きな災害が続く昨今、本作は大いに読み直されるべき小品だと思うし、短編として優れている。
脚本はフランク・ギャラティ版(2005年)で、6編から「かえるくん、東京を救う」と「蜂蜜パイ」の2編を取り上げて構成。村上作品の舞台化として成功を収めた蜷川幸雄演出「海辺のカフカ」(2012年初演)も、このギャラティの脚本である。実は本作は、「Ninagawa x Murakami」の第二弾として企画されていた。蜷川逝去で実現できなかったが、今回「わたしを離さないで」(2014年初演、カズオ・イシグロ原作)の脚本を手がけ蜷川を支えた倉持裕が後任に決まり、再始動した経緯がある。2つの短編がどのように交錯して1つの物語を紡いでテーマを浮き彫りにするのか、倉持の演出に期待したが、ほぼ朗読劇の体で私としては少し食い足りなかった。だがそれは脚本がそういう形態であったので、決して倉持のせいではない。まことに「静かな演劇」であった。

どうしても平板になりがちな中で、もっとも光を放ったのは、予想通り、木場勝己。「3日後に東京を襲う地震」を食い止めるため、しがない銀行員に協力を求める体長2メートルの大カエルという奇想天外な役を、いとも「自然」に、しかし存在感をもって演じきった。彼が「海辺のカフカ」で演じたナカタさんも、猫語を話したり空からイワシを降らせたりと寓意性の強い人物だった。今回も味のある演技を見せてくれるに違いないとは思っていたが、一つ一つの言葉にリアルな感情や具体的なイメージを持たせる力には、本当に舌を巻く。
対する銀行員・片桐役の川口覚。彼はさいたまネクスト・シアター「2012年・蒼白の少年少女たちによる『ハムレット』」(蜷川演出)で瑞々しいハムレットを演じ、また倉持作品にも出演経験がある。片桐の他に、新聞記者の高槻としても登場する。一種の早替わりなのだが、観客から「途中まで別人がやっているのかと思った」という声が上がるほど、見事な演じ分け。高槻はは「蜂蜜パイ」に出てくる人物で、目立たないサラリーマンの片桐と正反対の、バイタリティ溢れる男だ。「蜂蜜パイ」は小説を書く男・淳平(古川雄輝)と高槻、そして小夜子(松井玲奈)をめぐる、甘酸っぱい青春を引きずった奇妙な三角関係が展開する。古川、松井とも、そつなく演じてはいたけれど、可もなく不可もなし。演出がスルスルと流れる中、古川にはもっと心の闇の部分を、松井には、「待つ」しかできない食虫植物だからこそ放つ、独特のフェロモンを出して欲しかった。

もし蜷川なら、どんなふうに演出しただろう、と想像する。「地震男」とは何なのか、そこをもっと掘り下げ、ビジュアル化したのではないか。あるいは高槻・淳平・小夜子に、「たられば」の展開をパラレルワールドとして見せたかもしれない。お得意の黙劇などを使ってドロドロとした本音の部分を刺激的に板に乗せ、そこにツルンとした村上節を重ねてプライドの高い男と女の本音と建て前を暴露したかもしれない。劇場をあとに、いろいろと想像をたくましくする夜とはなった。

 

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